横綱白鵬(30=宮城野)が、土俵際の大技で唯一の全勝を守った。先場所敗れた西前頭2枚目の隠岐の海(30)に攻め込まれたが、逆転のやぐら投げで下した。幕内では09年名古屋場所で朝青龍が決めて以来の豪快な珍手で場内を盛り上げ、初日から7連勝となった。

 奥歯を食いしばり、両腕に力を込めた。左四つがっぷりの体勢から隠岐の海に攻め込まれた土俵際。白鵬は必死に踏ん張り、両膝を折った。その反動で右足を蹴り上げる。相手の体を浮かせると、左に振るように投げ落とした。

 ただ、同じ宮城野部屋の立行司、式守伊之助の軍配は相手に上がった。「軍配が向こうに上がったのは知らなかった。かかとが出たのかな、と」。それでもすぐに物言いがつくと、落ち着いた表情で協議を待ち、横綱では初体験の軍配差し違えでの勝利が確定した。

 「(相手が)浮いてましたね。似たようなものは、あったかもしれないけど。きれいなのは初めてかな。とっさでしたね」

 決まり手は、やぐら投げだった。09年名古屋場所13日目に横綱朝青龍が大関日馬富士に決めて以来の珍技。「力が強いイメージ」と白鵬が言う通り、圧倒的な力差がないと決まらない大技を、鮮やかに決めた。

 負けられない意地があった。3日目から休場した先場所は、初日に小結だった隠岐の海に敗れていた。横綱昇進後、小結以下の力士に2場所続けて敗れたのは、07年秋と九州の小結安馬(現日馬富士)戦だけ。格下への連敗は許されない、綱の誇りが珍手を生んだ。

 痛めていた左膝に負担を掛ける相撲にも「大丈夫」と無事を強調。「まあ、ゆっくり休んだから」と、今場所初めて朝稽古を休んだ効果にも頬を緩めた。場内を盛り上げ、ただ1人の全勝をキープ。36度目の優勝へ、一気に乗っていきそうな気配だ。【木村有三】

 ◆やぐら投げ 両まわしを取って相手の体を十分に引き付けた上で、ひざを相手の内股に入れて太ももに体を乗せる。そのままつり気味に持ち上げてから、振るようにして投げ落とす。両力士の力の差が大きくなければ見られない大技。上手から投げれば「上手やぐら」下手から投げれば「下手やぐら」というが、決まり手は「やぐら投げ」に統一されている。幕内では09年名古屋場所13日目に朝青龍が日馬富士に決めて以来6年4カ月ぶり。その前は75年九州9日目に青葉山が福の花に決めて以来で、34年間も出ていなかった。