初めての結びの一番は、わずか2秒5と短かった。「少しでも善戦したかったけど、あっけなかったのが残念」。それでも、気持ちは臆することなく挑めた。東前頭筆頭の琴勇輝(24=佐渡ケ嶽)は横綱白鵬(31=宮城野)に初めて挑み、押し出しで敗れた。

 思い起こせば1年前。場所前の力士会で白鵬から、最後の仕切り前の「ホゥッ!」とさけぶ気合入れのルーティンを厳しく指摘された。

 同じく名指しされた1人の千代鳳はやめたものの、琴勇輝は「意識的な受け狙いのパフォーマンスでなく自分の中のリズム、あくまでも気合」と続けてきた。

 それから1年。因縁の大阪で初めて取組が実現した。注目されたルーティンは、迷わずにこなした。「それが自分なので。あえて何かを変えるつもりはなかった。いつも通り、本来の自分の間合いでやろうと思いました」。これまで通り「ホゥッ」とさけび、白鵬に向かった。

 ただ「先手で攻めなければ」との気持ちが強すぎ、最初の立ち合いはかなりの“フライング”。2度目の立ち合いでは右ほおに張り手が飛び、さらに「あれがすごかった」というかち上げも食らった。「どっちかだろうと思っていたが…。2つ目が速い。初めて横綱のスピードを経験して、次の手、次の手と来た。張り手だけじゃなく、張った後のかち上げ。勉強になりました。まだまだ足りないということですね」と頭を下げた。

 ただ、自己最高位で迎えた初めての結びの空気感は、緊張で頭の中が吹っ飛ぶことなく、存分に味わった。

 「結びはすごい面白くて、空気感も味わえながら相撲が取れた。仕切りから立ち合いまでは、自分のペースで落ち着いてできました。1つ1つの経験が自分の力になって、自信となっているのは間違いない」。負けてもどこか、うれしそうだった。