日本映画製作者連盟(映連)の新年記者発表が24日、都内のコートヤード・マリオット銀座東武ホテルで行われた。

 16年の興行収入(興収)10億円以上の作品が発表され、42本が名を連ねた。その中で現在、公開中の「君の名は。」が興収235億6000万円で邦画、洋画を含めて首位、「シン・ゴジラ」は82億5000万円で邦画2位、邦画と洋画を含めて3位となった。

 両作品を配給した東宝の島谷能成社長(64)は「東宝にとって、記憶と記録に残る1年」と評し、16年を振り返った。

 島谷社長 32本を配給し、年間興収854億円と歴代1位。年間興収500億円は13年連続で突破し、700億円超えは6回目で初の800億円超えでした。「君の名は。」と「シン・ゴジラ」が突出していますがテレビ局、出版社を軸にした製作委員会作品、アニメ、自社製作3つの柱が充実しました。実写の興収10億円超えは47本、アニメは15本。「君の名は。」加えた。興行収入は58対42のシェア。新しいアニメーション時代の到来を確信したというか、見せつけられた1年でした。東宝の宣伝、営業力、配給力、企画、製作力が発揮された。

 その上で「君の名は。」と「シン・ゴジラ」が、日本映画史に残るヒットを記録した総括と、それぞれがヒットした理由を、時間を取って説明した。

 <2作の総括>「君の名は。」は新海誠監督、「シン・ゴジラ」は庵野秀明総監督と、2本ともに極めて個性的で才能を持ったクリエイターが才能を全開し、ドライブしてくれたことに尽きる。企画の初動から(東宝グループの映画館チェーン)TOHOシネマズで興行する、風上から風下までのフォローが掛け算となったと今は考えております。以前はアニメ専用の原作素材、作り手、お客さんがいた。実写もそう…それが「君の名は。」で徐々に近づいて全く1つになった。「シン・ゴジラ」も、アニメの製作者の庵野さんが引っ張ってくれた。両方の垣根がなくなり、とてもすばらしいことだと思う。実写であろうがアニメであろうがハイブリッドであろうが、なんでも映画。お客さんもそうなってくれれば、企画の幅も広がる、表現の幅も広がった。製作者の自由度は広がった…すばらしいと思う。

 「シン・ゴジラ」 54年に登場してから、東宝を代表した知的財産。14年のハリウッド版のリメークで、世界に名をとどろかせた。母国・日本ですばらしさを見てもらいたいと考えていた夢を、庵野秀明監督がかなえてくれた。現代の日本をリアルに可視化して、観客をスクリーンにくぎ付けにした。見ている最中、スクリーンの中に飛び込んでいくダイブ感を味わった。見た方が、この事件の当事者になった“当事者映画”になって、自分のストーリーを探してくれたのが、大ヒットにつながった。

 「君の名は。」 この作品のすごさを発見してくれたのは、若者たち、作品の魅力をすなおに評価して、SNSで拡散してくれた。ウワッと広がったことをきっかけに世代、性別を超えて多くの日本人の(心の)琴線を鳴らす作品に成長し、今も続いている。興行界全体に実りをもたらした作品。今年、オリジナルのアニメの映画も作ります。

 映連加盟各社の社長も、「君の名は。」と「シン・ゴジラ」の大ヒットを分析し、称賛した。

 松竹・迫本淳一社長 2本とも、すごい勉強になった。「君の名は。」に関しては、映画の魅力が存分に詰まり、実写と映画の垣根をなくしたエポックメーキング的な作品。挑戦すれば、こういう道が開ける、というのは、いい光が差し、いいものを教えてもらえた。「シン・ゴジラ」のヒットの要因は3つ。東宝さんがゴジラというキャラクターを育てることを、長きに渡ってやってきた。庵野秀明総監督のファンに満足いく作品、それ以外のファンにもハラハラ、ドキドキさせた、両方のマーケットに目を向けて、成功させた典型的ないい例で、我々も勉強してあっていきたい。コミックスの影響力が高くなったこと、映像技術の向上が、実写とアニメの垣根をなくしている。

 東映・多田憲之社長 「シン・ゴジラ」は東宝さんの企画力に感服。庵野秀明総監督とゴジラを結び付ける発想がなかった。「君の名は。」はリスキーな産業の中で、チャレンジが必要な中で(ヒットは)うれしく思う。きっかけに新しい才能、作品の出現に期待したいし、できれば東映でやりたい。

 KADOKAWA・井上伸一郎代表取締役・専務執行役員 1ファンとして「シン・ゴジラ」の出現を喜んだ。総監督が庵野秀明さん、現場が樋口真嗣監督で期待は大きかったが、それを上回る作品が出来た。SNSの力が大きい。ファンの声がツイッター。フェイスブックにあふれた。「この世界の片隅に」も同じ現象で、ファンが応援しやすい環境をつくった。アニメ的な作り方…作品の居どころ、快楽度が高かった。「君の名は。」は、これだけ大きくなると、何を言っても正しい分析になる。新海誠監督は過去15年、作品を作り続け、ひそかにファンを作り続けてきた。それが東宝さんの大きな器で爆発した。川村元気さんという個性的なプロデューサーが、メジャーな部分を引き出した。ジブリさんが作品を作らなくなり、ジブリの作品を見ていれば安心という人が、新しい人、作品を発見する時代となった(タイミングで登場した)作品。KADOKAWAでは、原作にあたる小説を公開前に出版し、50万部を突破し、現在は150万部突破…ナンバーワンです。

 東宝の島谷社長は、今後について「必ず、次の作品をお客さんは探しておられる。映画界として、新鮮な魅力満載の作品を、きちんと提案したいと強く思っている。17年は大切な1年になる。去年にはない作品に触れていただきたい」と、さらなる大ヒット作品の提供を固く約束した。【村上幸将】