J2札幌のMF小野伸二(36)が、10月4日の東京V戦と10日の金沢戦で2試合連続ゴールを決めた。札幌移籍後1号となった東京V戦は、FWナザリトから受けたパスを、右足でシュートフェイントを加え、ペナルティーエリア外から、優しく左足でゴール左隅に流し込んだ。試合後、小野はこう振り返った。

 「ダイレクトでもいけるかと思ったけど、後ろからフリーという声が聞こえて冷静になれた。後はゴールへのパス」。「シュートはゴールへのパス」というのは、元日本代表ジーコ監督の名言。さりげなく、こういうフレーズを引用してくるところが小野らしいなと感心したところ、10日金沢戦の2点目の後は、こんな言葉が出てきた。

 「いいボールが来たので、ゴールに、ただ置いてくるだけでした」

 MF荒野からのグラウンダーの左クロスを、右背後から斜めに走り込みながら、DF2人の間を駆け抜け、ダイレクトに左足で当てただけ。緊張をともなうゴール前のワンプレーも、天才小野には、目の前に見えたスペースに「置く」作業でしかなかったようだ。

 2ゴールとも、決して簡単ではなく、周りにDFもいたが、軽く蹴ったような一撃でネットを揺らした。小野自身「もともと、力を入れたシュートはあまりうたないからね」と言う。剛より柔。かつて「ベルベットパス」と評されていたのを思い出したが、パスの延長がシュートであり、従ってゴールを決めるからと特別、力む必要もない、ということだ。

 日本が生んだ最高のテクニシャン。ボールタッチの柔らかさは明らかに、他の選手と違う。昨夏の加入後、練習を見ていて特に目を引くのがアウトサイドでのパス。足の内側でとらえ押し出すインサイドキックは、蹴る方向と顔の向きが同方向になりやすく、相手選手にも読まれやすい。だが、アウトサイドだと、顔の向きとは違う方向に出すため、敵が特定しにくい代わりに、コントロールひとつ間違えばピンチを招く可能性も高い。だが、小野はこれを、ノールックで、トラップなくダイレクトで味方に通す。右足の場合、軽く時計回りに変化させながら、味方の走り込む先にぴたりと転がす。確実にミートできる技術があってこそ生まれるプレーでもある。

 世界水準のプレーを間近で見られる幸せ…。ということで最近、小野をまねて休日に子供とボールを蹴る際はアウトサイドキックを多用している。インサイドキックは股間を開き、太ももを上げる必要があるため、運動不足で体が凝り固まった42歳の中年おやじにはしんどい。だが、アウトサイドキックだと、足の付け根から振り上げなくても軽く膝下だけを振り、つま先の外側に当てるだけで、意外に飛ぶ。

 客観的に見ればまったく異次元のものなのだが、自称「小野ばり」のベルベットパスを蹴っているという勝手な錯覚が、この秋のひそかな楽しみになっている。ちなみに、まともに息子の前には飛ばないが、「Oh No!」と非難されることもない。子供にとっては無駄にボールを追う時間が増えるためスタミナ向上には多分、貢献している。

 ◆永野高輔(ながの・たかすけ)1973年(昭48)7月24日、茨城県水戸市生まれ。両親が指導者だった影響で小5からフェンシングを始め競技歴15年。早大フェンシング部で一度、現役引退し、00年に再起してサラリーマン3年目の27歳で富山国体出場。09年から札幌担当。