J2札幌のキャンプ取材で08年から9年連続、春先に長期滞在している熊本が、地震で壊滅的な被害を受けている。見慣れた風景が消え、自然の猛威に襲われた映像が、毎日、ニュースで報じられている。来年、また熊本に行くことがあるのだろうか。恐ろしい光景。と同時に、取材でお世話になった人たちの安否や生活が日々、気になって仕方がない。

 札幌の選手会長、MF荒野拓馬(22)は、14日午後9時、震度7の地震発生直後、U-18時代の先輩でもある、熊本DF上原拓郎(23)と、真っ先に連絡を取った。「選手みんなでクラブハウスに集まって、家にいるのは危険だから、車で寝ているという話を聞いた。なんとか、仲間を手助けしたい」。翌15日に、札幌市の地下歩行空間で復興支援の募金活動に乗り出した。選手会からの寄付金も集め、約60万円の募金が集まった。23日、札幌ドームでのC大阪戦でも募金活動を実施する。

 記者としても、熊本滞在時にお世話になった人の安否が気になり、ラインやSNSなどを使って「大丈夫ですか」と聞いてみた。元札幌監督で、現熊本コーチの財前恵一氏(47)は、すぐに「大丈夫です、ありがとう笑」と返信をくれた。安心した。

 他の方からも「熊本市内は危険だから隣町の実家に避難した」「体育館に寝泊まりしている」などと連絡が返ってきた。床に毛布を引いて寝転がっている写真も送られてきた。「コンビニの開店時に、何とか並ばずに食料を買うことができた」。「電気は復旧していて信号は動いている」「水の都熊本で、水が足りないなんて…」など。

 熊本市街地にある下通りアーケードや、銀座通りに、崩壊したビルのガラス片が散らばり、空港へのアクセスポイントだった交通センター前に向かう通りには、通行止めのパイロンが置かれた映像がニュースで流れていた。熊本出張時に食事で何度も訪れたあの繁華街が…。チームのJ1昇格を祈願しに訪れた阿蘇神社の楼門は倒壊、オフの日に疲れを癒やすために温泉に向かう途中に渡った阿蘇大橋は崩落した。街中に凜(りん)とそびえていた熊本城の石垣は、ばらばらと崩れ落ちていた。すべてが、信じられない姿に変わっていた。

 「水を送ってほしい」「パンの配給はある。パンに挟むために缶詰とマヨネーズを送れないだろうか。仕事仲間に配りたい」など、リクエストを受けた。避難先の実家や親戚の家に送ってほしいとの思いから、姓は同じも、自分の名前ではない宛名が添えられた住所が送られてくる。物流網も滞っているし、いつ届くか分からないが、急ぎ、送ってみよう。

 今も余震が続いている。家に戻れないという精神的なストレスはいかがなものか。いつ事態が落ち着くのか。先が見えない自然の驚異。何かできることがないか、日々考えながらも無力感は否めない。今はただ、1日でも早い復興を祈る。


 ◆永野高輔(ながの・たかすけ)1973年(昭48)7月24日、茨城県水戸市生まれ。両親が指導者だった影響で小5からフェンシングを始め競技歴15年。早大フェンシング部で一度、現役引退し、00年に再起してサラリーマン3年目の27歳で富山国体出場。09年から札幌担当。