J2首位を走る札幌は、選手だけでなく、スタッフも厳しい“チーム内バトル”を繰り広げ、緊張感を維持している。

 札幌・宮の沢プレス控室の隣に、スタッフルームがある。昼すぎになると、壁越しに、男たちの歓声と悲鳴が入り交じった、地鳴りのような音が響く。「うぉ~」「あぁ~」。かなりの音量だ。びっくりして何事があったのか通訳兼マネジャーの李成樹氏(36)に聞いてみた。

 「男と男の勝負です」。昼時、スタッフは大抵、札幌西区の人気定食店「味の広龍」から出前を頼む。3年ほど前、フィジカルコーチだった古辺考功氏(45=現京都コーチ)が食器を返す前に「じゃんけんで負けた人が皿洗いすることにしよう」と提案。いつの間にか、ランチ後の恒例行事になった。

 コーチ、トレーナー、マネジャー、通訳の計13人。全員分の皿を洗うとなると、かなりの罰ゲームだ。だからこそヒートアップし、雄たけびも上がる。ちなみに、ブラジル人スタッフで新任のブルーノ・クアドロスコーチ(39)も既に1度、敗者になっている。

 さすがに監督に皿洗いをさせるわけにはいかないと、財前、バルバリッチ監督時代は、指揮官の参加はタブーとなっていたが、4月からは、四方田修平監督(43)が志願して参戦することになった。まだ敗者になっていないが、いずれ、その可能性も出てくる。最大14人に増えた熱いバトルロイヤル。李マネジャーは「じゃんけんのときは上下関係なしですから。みんなでやるので盛り上がるし楽しいですよ」と言う。

 各自自分で洗えば済むことだが、こういうときに「おれは自分でやるからいいわ」という人間が1人でもいると興ざめする。あえて、いい大人が、全員むきになって勝負することに意義がある。

 最年長で元日本代表DFの46歳名塚善寛コーチから、29歳の用具スタッフ相川裕太さんまで年の差17歳。後輩の皿を先輩が洗うこともある、問答無用の真昼の決闘だ。チームを強くするため、スタッフ同士、本業では、互いの立場から頻繁に意見をぶつけあうからこそ、ちょっとした遊びを監督以下、みんなで楽めるプチイベントは、逆に潤滑油になる。

 チームは22日讃岐戦で、02年大分に並ぶJ2タイ記録の5試合連続1-0勝利を遂げた。1試合未消化ながら勝ち点29で2位を4差と引き離し、首位をキープしている。たかが皿洗いだが、勝っても負けても笑える、スタッフ間のささやかなじゃんけんバトルにも、好調のカギが隠されているのかもしれない。


 ◆永野高輔(ながの・たかすけ)1973年(昭48)7月24日、茨城県水戸市生まれ。両親が指導者だった影響で小5からフェンシングを始め競技歴15年。早大フェンシング部で一度、現役引退し、00年に再起してサラリーマン3年目の27歳で富山国体出場。納豆ご飯を食べた茶わんは自分で洗う。09年から札幌担当。