<J1:名古屋1-0湘南>◇第31節◇20日◇平塚

 ドラガン・ストイコビッチ監督(45)率いる名古屋が、リーグ創設18年目の初制覇を粘り強い勝利で飾った。湘南を1-0で下し、鹿島が神戸と引き分けたため、3試合を残して頂点に立った。現役時代は「ピクシー」の愛称で親しまれ、華麗なプレーでけん引したが、現役では成し得なかった優勝を、古巣の監督に就任して3年目でつかみ取った。

 両手で顔を覆ったまま宙に舞った。合計3度。優勝が決まった瞬間は大きなガッツポーズをしたストイコビッチ監督は、胴上げされて、泣いた。選手で丸7年、監督として3年目。ずっと優勝を追い求めてきた。あふれ出る涙は、両手でも隠しきれなかった。

 「グランパス史上初の、本当に素晴らしい瞬間だった。心の底から感動的な、思いがわいてきた。(胴上げで)顔を隠した訳も、理解してもらえるだろう」。

 優勝会見でこう説明すると、左手親指でまた涙をぬぐった。

 J2降格が決まった格下湘南に苦しむ。シュート17本を浴びGK楢崎を中心に踏ん張る。後半21分、FW玉田が頭で決めた。今季の勝負強さを象徴する1-0での勝利だった。

 08年に低迷する古巣の監督に就任した。クラブ初のOB監督は、ミーティングを好まない。選手を信じ「サッカーは楽しむもの」と言い続けていた。だが「優勝」と公言し、闘莉王ら大型補強で臨んだ3年目の今季は変わった。

 今季初めて逆転負けした5月の浦和戦から2日後、クラブハウス内に選手を集めた。失点シーンの映像を示し選手を名指しでなじった。「次は絶対にこんなプレーをするんじゃない。命を懸けて戦え!

 お前たち、キンタマはついてんのか」。就任後最長の90分間も、怒りをぶつけた。

 命を懸けて戦え-。90年代、母国は内戦に揺れた。国連決議により、絶頂期だった94年W杯米国大会に出場できなかった。両親が空爆にさらされる苦境など紛争が絶えない。身近に戦火があり、政治的、理不尽な形で活躍の場を取り上げられた。日本人とは全く違う環境で培った強烈なメンタリティーが、チーム内の負け犬根性を一掃した。

 厳しい一面の裏で、自然な振る舞いで選手の心をわしづかみにする。中断期間の6月。飛騨古川キャンプ中に選手に生ビールを振る舞った。休日前夜の夕食会場にサーバーを手配。自腹で2樽(たる)、約24リットルを支払い「みんながハードワークしてくれた。飲んで話して、リラックスしてほしい」と言った。チーム内での公然の飲酒はタブー。戸惑いをみせる選手の前でジョッキをあおった。狭い食堂は選手、スタッフ、フロントまで一緒になった宴会会場になった。

 信条はチームスローガンにもある「ネバー・ギブ・アップ」。いつどんな時でも「物事はすべてが難しい。ただ、すべてが実現可能なんだ」と言う。“万年中位”とまで呼ばれた古巣の監督就任会見で、大見えを切った。改革への自信を問われ「ピクシーがやると言ったら、やる」と-。3年かかったが、言葉通りにやってのけた。【八反誠】