女子200メートル決勝で最速女王、福島千里(28=北海道ハイテクAC)が、自身の持つ日本記録(22秒89)を6年ぶりに更新した。22秒88のタイムで6連覇を達成するとともに、10年5月に出した記録を100分の1秒短縮した。前日には100メートルも制し、最多タイとなる6年連続の2冠達成。12年ロンドン大会に続き、個人2種目での五輪出場権を獲得した。

 真っ先にゴールを駆け抜けると速報タイムが、目に飛び込んできた。「22秒86」。福島はその瞬間「やった~」と両手いっぱいに広げ、体全体で喜びを表現した。

 その後、正式記録は22秒88となったが、それでも大きい0秒01の更新。10年5月以来、約6年ぶりの“自分超え”で6連覇し、6年連続の2冠、前日の100メートルと合わせ2種目での五輪代表入り。今日27日に迎える28回目の誕生日を自ら祝うと、地鳴りのような大歓声が会場にとどろいた。「久しぶりに心からうれしいって思う。長かった」と、言葉に実感を込めた。

 貫禄の走りだった。決勝前の練習で指導する中村宏之監督(71)に「(コーナーの真ん中あたりにある)水濠(ごう)付近で全員を抜きたい」と宣言した通り、スタート付近の向かい風をうまく切り抜けギアを上げると、コーナー出口付近ではもう「定位置」にいた。直線では他選手を5メートル以上も置き去りにした。「これで気持ちが切り替えられる」と喜んだ。

 今年の開幕戦だった4月29日の織田記念国際100メートル決勝を右足のけいれんで棄権し、その後、国内2大会を欠場。冬季に仕上げられた体は、繊細かつ敏感だった。決して故障ではないが「不安」の文字が新聞を躍った。そんな時、救ってくれたのが中村監督はじめ、チームメートの言葉。「絶対走れる」。福島は「周りがずっと信頼してくれていたから、私もやってきたことを信じられた」。

 「海外仕様」に身も体も仕上げた。10年5月以来、日本記録が出ていないが、停滞していたわけではない。12年のロンドン五輪以降、中村監督と何度も話し合いの場を持った。世界とどう戦って行くか? 出した答えが海外で経験を積むことだった。14年3月、約2週間、1人でオーストラリアに渡った。そこから毎年、海外に出て、すべてを自分でこなした。今月も進言して欧州で2大会に出場。負けない日本を出て、勝てない海外で自分の位置を確かめ、ぶれない軸を作った。

 日本記録は今年の世界ランキングでは56位タイ。現実も分かっているが「集大成」と置く3度目の五輪は「過去最高の五輪に」と決めている。日本の誇る絶対女王が、三度目の正直として、世界にその名を刻みにいく。【松末守司】

 ◆福島千里(ふくしま・ちさと)1988年(昭63)6月27日、北海道幕別町生まれ。幕別糠内中-帯広南商高。08年北京五輪で日本女子56年ぶりに100メートルに出場(1次予選敗退)。12年ロンドン五輪は100、200メートルともに出場し予選敗退。100メートルも11秒21の日本記録。166センチ、50キロ。