男子走り高跳びでムタス・エッサ・バルシム(26=カタール)が2メートル40の今季世界最高で圧勝した。バルシムに加え男子3000メートルのモハメド・ファラー(34=英国)、女子棒高跳びのエカテリーニ・ステファニディ(27=ギリシャ)ら、直前のロンドン世界陸上で金メダルを取った選手たちが順当勝ちした。その一方で男子800メートルのニジェル・アモス(23=ボツワナ)、女子100メートルのエレイン・トンプソン(25=ジャマイカ)ら、世界陸上では敗れたが、出場したダイヤモンドリーグで今季無敗を続けた選手もいた。

 世界歴代2位(2メートル43)を持つバルシムの独壇場だった。

 2メートル31を2回失敗して窮地に立つ場面こそあったが、その高さを3回目にクリアすると、続く2メートル33は1回目に成功。優勝を確実にすると、2メートル35も1回目で越えてきた。

 大会記録を1センチ上回る2メートル39に挑戦したが、2回失敗するとバーを2メートル40に上げ、これを1回目に跳んでいつものように気合の入ったガッツポーズを見せた。

「大会記録を14年に跳んでいたし、昨年も勝っていた。バーミンガムはラッキープレイスなんだ。肩に痛みがあったけど、多くのファンと選手仲間に支えられ、全力を尽くすことができた」

 この日の気温は17℃と低く、ロンドン世界陸上と同様に気象コンディション的には良くなかった。そのなかで2メートル40に成功したことは高く評価できる。バルシムの2メートル40以上は5シーズン連続10試合目で、世界記録保持者のハビエル・ソトマヨル(キューバ)と並んで史上最多タイの試合数となった。

「今日の2メートル40は自分でもグレートだったと思う。どこまで跳べるかは、自分で限界を決めたくない」

 世界記録の2メートル45という数字を、あえて口に出さなかった。

 長距離種目で史上最多の金メダル10個を獲得している地元の英雄ファラーは、五輪&世界陸上種目にない3000メートルに出場。ラストスパートで2位に1・70秒の差をつけて貫禄勝ちした。

 来年からはマラソンなどロードレースを中心に出場する予定で、英国国内でトラックレースを走るのは今大会が最後だという。

「ロンドン世界陸上のあと、少しだけ家族と過ごす時間も持つことができた。世界陸上と同じとは言えないが、感情も高まって英国最後のトラックレースを満喫できたと思う」

 幼少時に戦火を逃れ、ソマリアから英国に移住してきたファラー。

「若い頃は英国代表で走ることが夢で、ここまで金メダルを取るとは夢にも思わなかった。趣味だったランニングが仕事になったけど、走ることを愛することができた。今はロードレースで自分に何ができるかを考えている。トラックと同じプレッシャーにはならないと思うし、ロードは違う楽しみがあると感じている」

 トラックにキスをして感謝の意を表すと、英国国旗をまとってウィニングランを行った。英国で最も愛されてきたランナーが、勝利で地元ファンに別れを告げた。

◆今季の男子走り高跳び

 バルシムが今季、すべての試合で無敗を続けている。

 世界陸上に初優勝し、出場した5試合で勝っているダイヤモンドリーグは、ポイント争いでも2位に17点差で独走中だ。

 長年のライバルで2メートル42の世界歴代3位を持つボーダン・ボンダレンコ(27=ウクライナ)は、アキレス腱(けん)の慢性的な痛みを抱えているためか、2メートル40をここ3シーズン跳んでいない(ロンドン世界陸上は9位)。

 15年北京世界陸上、16年リオ五輪と連続金メダルのデレク・ドルーイン(27=カナダ)も今季、ケガをしたため6月のダイヤモンドリーグ・オスロ大会を最後に試合に出場していない。

 バルシムを止める選手が今季、現れることはないだろう。シーズン終盤の関心は、バルシムの世界記録への挑戦に移っている。