<陸上:日本選手権兼世界選手権代表選考会>◇最終日◇9日◇東京・味の素スタジアム◇男子200メートル決勝

 「和製ボルト」がハイレベルのレースを制した。ロンドン五輪代表の飯塚翔太(21=中大4年)が、8月のモスクワ世界選手権参加標準記録A(20秒52)を突破する20秒31で初優勝した。9レーンという悪条件ながら、5位までがA標準を切る激戦を制した。

 競り合うライバルが視界に入らない。遠心力の影響も少なからずある。そんな魔の9レーンにも、飯塚の走りにブレはなかった。必死に追う先輩スプリンターを余裕でぶっちぎり、日本一のフィニッシュラインを駆け抜けた。

 5月3日の静岡国際で、20秒21の今季世界最高(当時)をマーク。自信の表れが第一声に出た。「まさか自分が優勝するとは…思っていましたけどね」。甘いマスクをほころばせながら言葉を続ける。「コーナーを出て、これは行ったかなと思いました」。

 その静岡国際後に右太もも裏を痛めた。それ以降、筋力トレ中心の調整で失った筋肉を回復。心の方は、ここまでの経験を生かした。10年世界ジュニア200メートルで優勝し「和製ボルト」の愛称が付けられた。昨年はロンドン五輪も経験。「試合への気持ちの持っていき方、スタートラインでのアドレナリンの上げ方…。経験して成長できました」と胸を張った。

 すでに派遣標準記録を破っていたため、完走すれば決定する代表の座を優勝で決めた。刺激は男子短距離陣にある上げ潮の流れ。ただし、黙って指をくわえて見ているわけにはいかない。「100メートルの9秒台も格好いいけど、ボクも19秒を出したい。軽く20秒を切らないと入賞やメダルは取れない。9秒はちょっと待ってもらって…」。

 メダルが期待される400メートルリレーでも、21歳の若さながら後輩の山県、桐生らを引っ張る。「世界に“日本人のデカいのがいる”と覚えられたい。何か得る物はあるからボルトとも走りたい」。桐生、山県に負けじと飯塚も、夢の19秒台に向けひた走る。【渡辺佳彦】