陸上男子短距離で12年ロンドン五輪代表の山県亮太(22=慶大)が世界の名伯楽に弟子入りする。00年シドニー五輪男子100メートル金メダリストのモーリス・グリーン(米国)を育てたジョン・スミス氏(64)に約2週間の指導を受けるため、14日に日本を出発した。

 「興奮しています。いままでの自分とは違う自分になりたい。一皮むけたいです」。思わず声が弾む。契約するナイキ社の太いパイプで練習参加が決まったのは、米国のコーチについて執筆した卒業論文で研究したばかりの同氏だった。175センチのグリーンを筆頭に、小柄な選手の育成手腕にたける。大型化する短距離界で際立つ存在感は、176センチの山県にはぴったり。低姿勢からの飛び出しを徹底するのも、持ち味のスタート強化には適任だった。

 ロンドン五輪で10秒07の自己記録で走ってから、故障の連続で記録を伸ばせていない。今春に慶大卒業後はセイコーホールディングスに入社し、米国を拠点にすると決めた。「いままで日本を出ずにやってきた。米国で自分の陸上人生を」と心機一転を期す。まずは期間限定の参加だが、「指導法が合って、向こうにも認めてもらえたら、ずっといたいです」と希望した。

 今冬はライバルの桐生、飯塚と合同トレーニングも敢行し、「一緒にやって、自分の課題も肌身に感じた」という。その仲間とは3月の米テキサス州での国際大会で競い合い、リレーではタッグを組む。「負けたくないし、記録も出したい」。殻を破るため、新たな国で、新たな戦いが始まった。【阿部健吾】

 ◆ジョン・スミス氏とは

 現役時代は400メートルを中心に活躍した黒人コーチ。大学等で約20年指導した後、97年に弁護士のエマニュエル・ハドソン氏と、HSI(ハドソン・スミス・インターナショナル)を設立し、米カリフォルニア州に拠点を置く。スタート時にできるだけ低く走り出す持論のため、大型選手には向かず、小柄なスプリンターに適している。先行逃げ切り型の理論実践のため、HSIは身長175センチ前後の選手に限定して指導するほど。門下生にはグリーンのほか、ロンドン五輪女子100メートル銀メダリストで歴代2位の10秒64の記録を持つジーターらがいる。