今年もジュニアヘビーの季節がやってきた。新日本プロレスの毎年恒例、100キロ未満の男たちによるベスト・オブ・ザ・スーパージュニア。25回目を迎える節目の大会は18日に後楽園ホールで開幕戦を迎えるが、いまだからこそ会場に足を運んで直視してほしい選手がいる。16人の出場選手たちの中心に立つIWGPジュニアヘビー級王者ウィル・オスプレイ(25=英国)だ。

 ニックネームは「ジ・エアリアル・アサシン」「空王」。新日本参戦3年目を迎えた若き英国の雄は、現在3度の防衛を成功させ、新潮流をリングにもたらしている。その魅力は185センチという体格からは想像できない跳躍力、回転力、回転速度。美しくキレがある、その一瞬だけでお金が取れるような常人離れした錐もみ状態は、一見の価値ありあり。小柄で飛んで回ってなら歴戦の強者たちの名前を幾人も列挙できるが、大柄で飛んで回ってだとオスプレイの特異性は際立ちすぎる。3月の旗揚げ記念日興行では、同じ「CHAOS」に所属するIWGPヘビー級王者オカダ・カズチカと堂々と渡り合っての熱戦も提供してくれたちょうネクタイがよく似合う英国紳士に、17日の記者会見後に単刀直入に聞いてみた。

場外の柱によじ登り、大きく飛び込むウィル・オスプレイ
場外の柱によじ登り、大きく飛び込むウィル・オスプレイ

 -なぜそんなに飛べるの?

 「昔はガリガリだったんだよ。12歳くらいの時に両親がトランポリンを家の庭に買ってくれた。当時は(米団体)WCWを見ていて、クルーザー級(100キロ未満)を。頭の中で『あれできるんじゃないかな』と思っていた。ビデオを巻き戻し、再生を繰り返したよ、ずっと。腕がどう動くか、ひねりとかをずっと見て分析した。レッスンとか体操は未経験、すべて自己流でやってきた」

 -それまでにスポーツ経験はない?

 「サッカーをやっていたけど、メインでやっていたするとダンサーかな。ストリート、ブレイク、サルサ、ジャイブ、なんでもやります。18年前、小さかった頃にロンドンでパフォーマンスをしたこともあるくらい。ママが演劇のグループに入っていて、ダンスの先生を呼んでレッスンを受けていたんだけど、そこで幼少期から自分も教わった。実はバックヤードレスリング(リング外の日常生活の中で行うプロレス)をやっていた時期があって、ダンスの練習を1階で終わると、上の階でバックヤードをやってという生活を送っていたこともあるよ」

 -常識的には細身で小柄な選手の方が回転しやすいと思いますが?

 「そうだね、確かに。変だよね。でも肝心なのはリズムなんだ。ビートに合わせて体を動かすのが基礎にあるから、この体格でもできるんじゃないかな。ダンスのルーティンとバックヤードを融合させて、ユニークなスタイルになったと思うよ」

 -英国代表として五輪にだって出られそうなすごさを感じます

 「実際にトランポリンで挑戦してみないかと言われたことはあるんだ。もちろん何年も前のことだけどね。でも面白くないなと思ってしまった。なぜならもうその時にはプロレスが好きだったから」

場外の柱によじ登り、大きく飛び込むウィル・オスプレイ
場外の柱によじ登り、大きく飛び込むウィル・オスプレイ

 担当競技経験からすると、回転跳躍系の競技は小柄さが利点になる。例えばフィギュアスケートでは180センチを超えるような選手はほぼいなかった。回転軸は細く、だから筋肉も厚くしないというのが4回転ジャンプ時代の流れだ。現実に、力で思い切り跳んで回るパワー系の選手は第一線から後退している。性別は違えど、女子選手は10代の方がジャンプは跳びやすいというのも事実だ。それはひねりを加える体操の世界でも同じで、世界大会で表彰台に上がる面々にその国々の平均身長より大きい選手はまれだ。縦にも横にも大きければおおきいほど回しづらいというのは、回転系競技の世界では常識だろう。

 そういった観点で、オスプレイがリングでみせる動きは常識外れにあたる。そして、だからこそ会場で目撃する価値がある。

 今回話を聞いていて、トランポリンというキーワードも気になった。以前フィギュアスケーターの浅田真央さんの取材を進めていたとき、自宅の庭にトランポリンがあったと聞いた。「生まれたときにはあって、跳んでいたみたいなんです。いまでも使いますよ」。14年ソチ五輪前の本人の弁。記憶にないくらいから跳び、彼女は20代になってもトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を跳び続けた。跳躍器具との1つの出合いが、交わることがないだろう競技に身を置きながらも、2人それぞれに突出した武器をもたらす一要素となっていたのは面白い。

 幸い? オスプレイは「新日本でずっと戦いたい」と言っている。「(米団体)WWEを目指す他の外国人選手とは違う。新日本に価値がある」と姿勢を示す。ただ、どんなものにも永遠はない。いまこそ、ジュニアヘビー級王者の異空間を跳び抜くような瞬間を肌で感じる時。動画検索もいいが、是非とも生で目撃者に。【阿部健吾】

場外の柱によじ登り、大きく飛び込むウィル・オスプレイ
場外の柱によじ登り、大きく飛び込むウィル・オスプレイ

 ◆ウィル・オスプレイ 93年5月7日、英エセックス州生まれ。12年4月に英国でデビュー。15年の新日本プロレス英国遠征でオカダ・カズチカと対戦し、才能に注目が集まる。16年に「CHAOS」加入。同年4月にいきなりIWGPジュニアヘビー級選手権で新日本マットに初参戦。同年6月には第23回ベスト・オブ・ザ・スーパージュニアで初出場初優勝。得意技はオスカッター、ロビンソンスペシャル、エアーアサシン、オフユアヘッド。

ベスト・オブ・スーパー・ジュニア記者会見。IWGPのベルトを手にポーズをとるウィル・オスプレイ(2018年5月16日)
ベスト・オブ・スーパー・ジュニア記者会見。IWGPのベルトを手にポーズをとるウィル・オスプレイ(2018年5月16日)

 ◆第25回ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア

 16人が出場。A、Bブロックに分かれてリーグ戦を行い、両ブロックの1位同士が優勝決定戦(6月4日、後楽園ホール)に進む。出場選手はAブロックがウィル・オスプレイ、タイガーマスク、ACH、フィリップ・ゴードン、金丸義信、YOH、BUSHI、石森太二。BブロックがKUSHIDA、田口隆祐、クリス・セイビン、ドラゴン・リー、エル・デスペラード、SHO、高橋ヒロム、マーティー・スカル