<柔道:世界選手権>◇第3日◇28日◇リオデジャネイロ◇男女各1階級

 強く、美しく-。日本柔道の伝統を受け継ぐ新星が一気に世界の頂点に駆け上がった。男子73キロ級で初出場の大野将平(21=天理大)が6試合オール一本勝ち。内股を武器に勝ち上がると、ウーゴ・ルグラン(フランス)との決勝も鮮やかな跳ね腰で一本勝ちした。偉大な柔道家を生んだ柔道の私塾「講道学舎」の最後の世代として、胸を張った。日本男子が最軽量級から3階級を制したのは、全6階級を制覇した73年ローザンヌ大会以来40年ぶり。

 大野には強烈な信念がある。「日本の柔道が一番強く、美しい」。胸を張り、背筋を伸ばし、しっかりと組んで豪快に投げる。変わりゆく世界の柔道で、その価値を体現したかった。

 故郷の山口県から、都内にある柔道の私塾である講道学舎に入ったのは中学から。92年バルセロナ五輪金メダルの古賀稔彦、吉田秀彦ら多くの名選手を輩出した名門。教えは明快で「僕はそういう(一本を取る)柔道しか教わってない」。

 その虎の穴が、2年後に閉塾する。「すごいところで学んだ。最後として勝ちたかった」。強豪として知られた世田谷学園高は、大野を最後に学舎からの生徒を受け入れていない。「王道」を歩んだ最後の学年としての自負があった。

 初戦で09年大会王者の王己春と対戦。井上監督から「もう彼の時代ではない。お前の時代を作れ。必ず王者になれ」と送り出されると、組むのを嫌がる相手に対して前に出続けて圧倒した。たまらず指導が続いた王は指導4の反則負け。これで勢いに乗った。

 「前に出る攻撃柔道を貫けたのがうれしい」。特に決勝は見事だった。ロンドン五輪銅メダルのルグランに対し内股で有効を奪った後の2分33秒、再び内股を狙った。相手が耐えてもがくところを跳ね腰。腰と足を跳ね上げてきれいな放物線を描いた電光石火で、場内の熱狂を誘った。まさに「美しい」一撃だった。

 学舎の「絆」にも背中を押された。準々決勝のエルモント戦。残り40秒の内股で有効、同10秒の指導で追いつくと、延長戦前に声が聞こえた。「勝負だぞ!」。主は前日の66キロ級決勝で、左腕を負傷しながら金メダルの海老沼。学舎と世田谷学園高の先輩で「ケガしたのに投げて勝った。刺激になった」。延長42秒、相手の小外刈りをこらえ、内股で仕留めてみせた。これで勢いに乗った。

 自らも美しい柔道の継承者だった井上監督は「日本柔道を体現していて頼もしい」と目を細める。大野自身は「大変なのは研究されるこれから。ここがゴールじゃない。もっと強くなってリオに戻ってきたい」と一片の緩みもない。3年後の五輪、再びこの地でみせる。「一番強く、美しい」柔道を。【阿部健吾】

 ◆大野将平(おおの・しょうへい)1992年(平4)2月3日、山口県生まれ。東京・弦巻中-世田谷学園高-天理大。11年世界ジュニア、12年12月のGS東京で優勝。内股は2歳上の兄哲也さんの得意技を見て学んだ。世界ランク15位。家族は両親と兄。170センチ。