世界選手権3連覇中の海老沼匡(25=パーク24)が男泣きの優勝を飾った。66キロ級決勝で昨年覇者の高市賢悟(22)との熱戦を制し、3年ぶり4度目の戴冠。昨冬には高校生の阿部一二三(17)に敗れる屈辱から柔道から離れる時期もあったが、元代表選手の香菜さん(旧姓阿部)と昨年12月に結婚。支えを受けての日本一となった。世界選手権(8月、カザフスタン)では日本人2人目の4連覇を目指す。この日は女子78キロ超級、男子100キロ超級を除く代表が発表された。

 「僕が勝つと喜んでくれる人がいる…んで」。優勝インタビュー。海老沼の声が詰まる。目頭が熱くなった。激戦を制し、紅潮する顔を流れる汗に涙が混じる。勝って泣いたことはない。ただ、この日は違った。

 昨年の世界選手権代表同士の決勝は、技の応酬となった。高市には過去2戦2敗。1分すぎ、背後に回られ抑え込まれた。何とか逃げると、攻める番。内股で5秒ほど高く振り上げ続けた左足を起点に、腰車で有効。残り1分40秒過ぎに再び抑え込まれたが、8秒で脱出すると、残り10秒の背負い投げで技あり。逃げ切りは考えずに、最後も関節技を狙いにいった。

 昨年12月のグランドスラム東京で、「甘く見ていた」と若手の阿部に敗れた。「思い上がっていた…」。そのまま年末まで畳を離れた。最中の12月22日、高校時代から交際する香菜さんと結婚した。女子63キロ級で10、13年世界選手権代表の実績も、引退を決断し、サポートに回ってくれた。

 2人での新生活。「笑顔でいれば幸せがくる。大好きな柔道をやらせてもらっているんだし」と励まされた。柔道では寝技の助言ももらった。試合前には2人で目黒川で花見し、減量前最後の食事にはお手製のユッケジャンスープとチャプチェを平らげた。苦難の時期を救ってくれた。

 これまで妻が観戦すると勝てないジンクスがあった。ためらう姿に「見に来てよ」と誘った。「それも乗り越えたい壁だった。世界選手権でも見に来てもらい、結果を出したい」。日本人では藤猪省太に続く2人目の4連覇へ。その先には16年リオ五輪での金メダルがある。二人三脚で王道を歩んでいく。【阿部健吾】

 ◆海老沼匡(えびぬま・まさし)1990年(平2)2月15日、栃木県小山市生まれ。5歳から柔道を始める。古賀稔彦、吉田秀彦らを生んだ私塾・講道学舎に入るため、小学校卒業後に上京。世田谷学園高-明大から12年春、吉田が監督を務めるパーク24入り。同年ロンドン五輪66キロ級銅メダル。世界選手権は11、13、14年と同級3連覇中。得意技は背負い投げ。170センチ。