【アスタナ=阿部健吾】完全復活ならず-。女子48キロ級で3大会ぶりの女王返り咲きを狙った浅見八瑠奈(27=コマツ)は銀メダルに終わった。3回戦で世界ランク1位の宿敵ムンフバット(モンゴル)に競り勝ったが、決勝で昨年準優勝のパレト(アルゼンチン)に指導の差で敗れた。10、11年に続く3度目の優勝を逃した。昨年覇者の近藤亜美(20)は3位決定戦に勝って銅メダル。16年リオデジャネイロ五輪の代表レースで、両者ともリードできなかった。

 うつろな目でつぶやいた。「世界の壁の厚さを感じてます」。世界でどれだけ自分の力が通用するのか。2年ぶりの世界選手権に浅見が出した答えは「悪くはなかったんですけど、やはり金メダルじゃないと…」。13年と同じ銀メダルでは、当然満点とはいかなかった。

 3回戦、ヤマ場は越えた。2年前の決勝で敗れた宿敵ムンフバットに指導差で勝った。奥襟を取らせず、相手得意の寝技に持ち込ませない。細かな動きで幻惑する姿は、10年からこの大会を連覇した姿に重なった。ただ、その勢いだけでは越えられなかったのが世界の壁だった。

 決勝、初対戦のパレト。153センチの自分より低い相手に苦戦した。低い背負い投げを警戒し、上から力で抑え込んだが、逆に自分の足が止まった。動きも許し、後半は防戦一方。担がれ、なんとか逃れ、指導を重ねた。残り30秒で指導を受け、逃げ切りを許した。

 心は戻ってきていた。ロンドン五輪へ奮闘していたころの気持ちに近づけていた。きっかけは2月、ドイツでの国際大会。ムンフバットに準決勝で負けても、悔しさが見えない姿に谷本コーチが語気を強めた。「悔しくなかったら、やっている意味がない。やめなさい」。同じ大会に出た近藤は負けて震えて泣いていた。「ムンフバットも、必死に戦っている気持ちが伝わってきた。足りない部分だった」。後輩、宿敵の姿に痛感させられた。

 以降はがらりと切り替わった。進退を決めかね、休養を決めたのは昨年。フランス留学などで畳を離れ、気持ちも新たに復帰後も、「目指す柔道が分からなかった」と迷っていた。それが、この叱咤(しった)で目が覚めた。同コーチも「やっと戻ってきた」と目を細めていた。

 成績は戻ってこなかった。「内容的にもまだまだ。やり直すところがある」。悲願の五輪出場へ、壁の厚さに下を向いている時間はない。