リオデジャネイロ五輪(8月5日開幕)が3カ月後に迫っても、セーリング会場の「水質汚染」は解決していなかった。会場のグアナバラ湾には人間の排せつ物が浮遊し、強烈な悪臭が漂っている。同湾に流れ込む河川にリオ市内の下水が直接流れ込んでいるのが原因だ。ゴミも大量に漂うなど、ヨットにからみつけば競技そのものにも影響を与えかねない。健康、競技の両面で危機的な状況が続いている現状をリポートする。

 プカプカと浮かぶ茶色の物体に、記者が乗ったボートが囲まれた。セーリング会場のヨットハーバーから100メートル余りの距離にある下水口。人間の排せつ物がそのまま流れ込み、悪臭はひどく、吐き気をもよおすほどだった。高級クルーザーなどが停泊し、一見美しく見えるヨットハーバーだが、実態は下水の終着点だった。地元住民は「干潮時は陸にもいられないぐらい臭い」と鼻を押さえた。

 ボートに同乗した環境コンサルタントのマリオ・モスカテリ氏によると、グアナバラ湾に流れ込む川は「55」あり、そのうち「49の川が下水やゴミで死んでいる」と説明。同湾のほとりには約700万人が住んでいるというが「州政府の発表では約300万~400万人の下水が流れ込んでいる」と語った。

 同氏によれば4月中旬、国際オリンピック委員会がヨットハーバーを視察した際、州や市は「下水を止める」と約束したが、取材した同月下旬には下水は流れ込んだままだった。20年前からグアナバラ湾の水質汚染を観察し、改善を訴えてきた同氏は「州は当初より60%ほど水質改善していると主張するが、そんな状況ではない」と憤った。

 レースが行われる海域にはビニール、サンダル、タイヤ、人形まで、たくさんのゴミが浮遊していた。ヨットにそれらが絡みつけば公平な試合ができないだけでなく、転覆する恐れすらある。雨が降れば下水にたまったゴミが一気に湾に流れ込むため、レースどころではないという。

 国際空港からリオ中心街へ向かう橋の近くに行くと、メタンガスの気泡が無数に見られた。ファベーラ(貧民街)から下水が直接流れ込んでいる場所。「1カ月ほど前に遺体が上がった」という。国際空港に降り立った五輪観光客が車でリオ中心街に向かうには、必ずこの橋を通る。同氏は「車窓を開ければひどく臭う。これがリオの玄関口。恥ずかしい」とうなだれた。

 汚染された海に人が入ると「肝炎など内臓に病気が発生する恐れがある」と警告。90年代から日本政府などが資金協力してきた同湾だが、改善されぬままだ。メダル争いを繰り広げる会場には到底思えなかった。【三須一紀】

 ◆グアナバラ湾 1502年1月、ポルトガルの探検隊が発見。同湾を川と勘違いしたことから、後にポルトガル語で「リオ・デ・ジャネイロ(1月の川)」と町の名前に由来した。国際的な支援もあり下水処理場はあるものの、処理されている下水は一部分。下水料金を払いたくないファベーラなどの住民は、不正に垂れ流しているため「巨大なトイレ」とも呼ばれる。一方、下水口があるヨットハーバーの近くにはフラメンゴ海岸やボタフォゴ海岸など、海水浴もできるビーチがある。官公庁がある「セントロ」も近い。