短水路(25メートルプール)で争う競泳W杯東京大会で、ただ1人、日本記録を出したのはリオデジャネイロ五輪代表の寺村美穂(22=セントラルスポーツ)でした。女子100メートル平泳ぎで1分4秒05と、同じく五輪代表の鈴木聡美の日本記録を100分の6秒更新。「本業」は五輪で出場した200メートル個人メドレー。同種目では日本記録を逃しただけに、レース後は「200メートル個人メドレーで日本記録を出したかった」と貪欲でした。

 初の五輪では準決勝9位と、0秒16差で決勝に進めませんでした。レース後は涙ながらに4年後のリベンジを誓っていましたが、帰国後はさらに「格差」を味わったはず。メダリストとメダルを逃した者の差は本当に大きい。帰国すると、メダリストは報道陣に囲まれ、その後は関係者にあいさつ回り。メダルのない選手はその場で「お疲れさま」と解散。報道陣は、ほぼだれも寄り付かない。自分も味わいましたが、残酷な現実。ただそこで美穂は心を折らず、逆に発奮材料にしました。

 平泳ぎの選手でしたが、中学3年で右膝を痛めて個人メドレーに転向しました。高校時代はロンドン五輪代表に0秒54届かず出場権を逃します。五輪1年前の昨年は再び悪化した右膝を手術。苦しいリハビリに耐え、腕のかきだけで何時間も練習しました。もともと、底知れぬ根性の持ち主。メダリストの差を肌で感じたことで、さらに競技への執着心は高まったようです。

 五輪直後の大会は気持ちの持っていき方が難しい面もありますが、美穂にとっては関係ない。オフもわずか3日だったと聞く。今大会の活躍は、きつい冬場の泳ぎ込みへ、勢いがつくはずです。今後は古傷の膝に負担をかけず、いかにパワーをつけるか。その課題をクリアすれば、4年後の東京五輪では大躍進が待っているはずです。(伊藤華英=北京、ロンドン五輪代表)