<フィギュアスケート:グランプリシリーズ第6戦・ロシア杯>◇2日目◇26日◇モスクワ

 【モスクワ=今村健人】女子ショートプログラム(SP)首位の浅田真央(21=中京大)が、総合183・25点で復活優勝を果たした。SP、フリーとも最大の武器のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を封印したが、フリーでもトップの118・96点を出した。GPシリーズの優勝は08年12月のファイナル以来、3季ぶり通算8度目で日本人最多。昨季からスケートを一から見直した天才少女が、長い苦闘から抜けだし、3季ぶりのGPファイナル(12月8日開幕、カナダ・ケベック)進出も決めた。SP6位の今井遥(東京・日本橋女学館高)は6位だった。

 久しぶりに味わう歓喜の瞬間だった。ミスをした。ジャンプで失敗した。そんな不安が、得点を見て消え去った。浅田は今までの苦しみを吐き出すかのように、静かに喜んだ。「演技は置いておいて、優勝できて、良い流れに乗れると思う。うれしさと悔しさと半分半分ですが、この良い流れを自分のものにしたい」。昨年3月の世界選手権以来、GPシリーズでは08年12月のファイナル以来、実に3年ぶりの頂点。しみじみと喜びをかみしめた。

 直前の6分間練習で、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)は確率50%だった。「跳びたいけど、跳びたくない」。迷える背中は、佐藤信夫コーチの言葉で消えた。「今回は取りあえず2回転半にしよう。良くなってきているから、先生も楽しみにしている」。

 SP同様に代名詞を回避した。1大会で1度も跳ばなかったのはシニアになって初めてだった。3季ぶりのファイナルが懸かった大事な舞台。「やっぱり行きたい」と慎重になり、硬くなった。3回転ルッツで手をつき、2度目の2回転半の後に3回転をつけることもできなかった。それでも、他者を寄せ付けない質の高い滑りと、圧倒的な表現力。昨季から滑りこなす「愛の夢」の旋律に乗って、愛らしく演じた。

 我慢のときを耐え忍び、ようやく乗り越えた。苦手なジャンプや滑りを直すため、昨年9月から佐藤信夫コーチに習った。基礎の基礎。シングルジャンプから教わり始め、筋肉痛になるほどの低い姿勢で、スケーティングを強いられた。

 新幹線で1人通う新横浜のリンクでは、特別扱いはされなかった。練習はみんなと一緒。多ければ30人にもなり、時間内に自分の曲がかからないこともあった。名前順に滑る演技では、次の選手が曲をかけるのが習わし。浅田も並んで、緊張しながら前の選手のためにかけた。初めて経験することばかり。その中で、不安定ならトリプルアクセルを我慢することも学んだ。2年目の今季。1つ1つが確かに身に付いてきた。

 3回転半は今回、跳ばなかった。だが「ファイナルではやっぱり入れたい」。佐藤コーチも「だいぶ(完成に)近づいている。次は本人が『いやだ』と言っても、やらせるようになりたい」と笑った。今季、靴の色を白に変えた。「真っさらな気持ち」で臨む意志の表れ。そこに、確かな「飛躍」という色が加わった。