<卓球:全日本選手権>◇最終日◇22日◇東京体育館

 卓球界に超新星が誕生した。男子シングルスで18歳の吉村真晴(まはる、野田学園高)が初優勝。決勝ではロンドン五輪代表の水谷隼(22=明大)とフルセットの大激戦を展開し、マッチポイントを握られてからの5連続得点で奇跡的な逆転勝ちを果たした。同種目の高校生王者は水谷以来で史上2人目。すでにロンドン五輪代表には水谷、岸川聖也(24=スヴェンソン)の2人が決まっているが、最後の3人目に名乗りを上げた。

 吉村は冷静だった。3ゲームずつを取り合って迎えた最終ゲーム、7-10とマッチポイントを握られた。ミスすれば試合が終わるレシーブを、意表を突く「ツッツキ」で相手のフォアサイドに短く返す。これまでやっていない投げ上げを低くするサーブで王者の度肝を抜いて連続得点。水谷のレシーブミスを誘って優勝を決めると、大の字に寝ころんで喜びを爆発させた。

 「信じられない。最後は開き直りでした」。吉村は奇跡的な逆転勝ちを振り返った。相手の6連覇を阻止する優勝に「止めちゃっていいのかなと思った」と笑った。昨年はベスト32だったが、この1年で急成長した。昨年2月のトップ12で準優勝、7月のアジアジュニアを日本人として初めて制し、11月の世界ジュニアでベスト4入りした。5回戦突破を目標に臨んだ全日本で優勝。「試合ごとに自信になった」と話す。

 野田学園の橋津文彦監督(37)は「最大の武器は超攻撃的なところ」という。サーブは多彩で、試合中にも次々と新しい技を繰り出す。卓球選手にしては大きい178センチ、リーチが長くプレー範囲も広い。日本代表の宮崎義仁監督(52)は「発想が豊かで、未知の魅力を感じる」とほめた。

 元選手だった父弘義さん(47)の影響で7歳から卓球を始めた。地元の東海クラブで、自宅の台で練習する卓球漬け。父から「自分で考えて、引き出しを増やせ」と言われ、新しい打ち方を工夫した。それが楽しみになり「変幻自在」のスタイルが生まれた。フォアだけでなく、バックでも強烈なドライブが打てるのも持ち味。「毎日、風呂で手首の運動をさせた」(父弘義さん)おかげで、強靱(きょうじん)な手首が出来上がった。

 仙台・秀光中までは「練習もやらず、よく怒られた」と話したが、3年で野田学園中に転校してから変わった。「国体のために呼ばれた以上、勝たないと」と本腰を入れ、昨年の山口国体では団体優勝に貢献した。次は世界。ロンドン五輪も見えてきた。「まだ考えにくい。将来は世界で勝ちたいけど」と控えめだが、メダル有望な団体戦の3人目に滑り込む可能性は十分ある。変幻自在の「真晴スタイル」が世界の強豪を驚かせる日も近い。【荻島弘一】<吉村真晴(よしむらまはる)プロフィル>

 ◆生まれ

 1993年(平5)8月3日、日本人の父弘義さん(47)とフィリピン人の母リリベスさん(40)の間に茨城・東海村で生まれる。東日本大震災の時は「しばらく連絡が取れずに心配だった」。

 ◆名前

 「真晴」はタガログ語のマハル(愛する)から。友人には「マッハ」と呼ばれている。

 ◆卓球歴

 幼稚園で興味を持ち、7歳で始める。2人の弟和宏(野田学園中3年)と友斗(東海中2年)も選手として活躍中。

 ◆恩師

 ロンドン五輪代表の岸川を育てた橋津監督に誘われ、仙台・秀光中に進学。中3の夏に同監督とチームメートとともに野田学園中に転校。同監督からは6年間指導を受ける。愛工大に進学予定。

 ◆石川佳純

 今大会でダブルスを組み4強。「勝負に対する厳しさとかが、勉強になります」。

 ◆サイズ

 

 178センチ、61キロ。「身長も大きいほうだけど、何よりリーチが長い」と橋津監督。

 ◆趣味

 音楽鑑賞で、好きなのはEXILE、湘南乃風。「卓球は趣味ではなく仕事」と本人。好きな女優は北川景子。