全日本柔道連盟(全柔連)は21日、東京都文京区の講道館で臨時の理事会、評議員会を開き、新日鉄住金の宗岡正二会長兼最高経営責任者(67)の会長就任を決めた。会見では「半年での改革」を掲げ、巨大企業を率いる手腕で、不祥事が続いた組織を劇的に変える意気込みをみせた。この日、上村春樹前会長ら執行部を含む理事23人が辞任。新体制は再任されたロサンゼルス五輪金メダリストの山下泰裕氏が副会長に就き、監事には山口香氏が選出された。

 「義を見てせざるは勇なきなり」。宗岡新会長は就任会見で、2度この格言を使った。「論語」からの引用で「人としてやるべきことを知りながら、しないのは勇気に欠ける」。幼少期から競技者として人格形成の礎になった柔道界の危機に、67歳の「財界の雄」が立ち上がった。

 1月に女子選手への暴力指導問題が発覚後、助成金の不正受給問題など不祥事が続出。「火中のクリ」を拾うことに悩んだ部分もあったが、受けたからには目標は明確だった。

 宗岡会長

 きっちりと立て直すのが仕事。1日も早く国民の信頼を取り戻したい。確認できしだい、若い有為な人に託したい。あと半年でそれができるかどうか。早期にやらねば。

 任期は来年6月までだが、念頭にあったのはそれより早い決着。上村体制では半年かかっても遅々として進まなかった改善に、半年で劇的な変化をもたらすことを使命とした。「若い人」は臨席した山下副会長とみられる。

 「具体的にはまだ白紙」と述べたが、真っ先に変えるのは理事会と評議員会。人数、年齢構成、外部の人材の登用などを挙げ、「仕事が回っているかチェックする体制も必要」、「改革委員会の意見も聞きながら、私なりの意見を示したい」とした。

 7段だった父哲郎氏から「強要されて始めた」という柔道。東大卒業まで本格的に続け、3段の実力を持つ。その経験から「青少年を社会に送り込む」という創始者の嘉納治五郎氏の目的をあらためて強調し、「人間形成があくまで第一になる」と言った。暴力指導問題では、勝利至上主義の功罪も言われたが「結果として強い選手が生まれてくる。原点に戻って立て直すことが大事」とした。

 全柔連を人に例えるならその形成は不全だった。ここからどう変わるか。「努むれば必ず達す」。努力すれば必ず目標に達することができる-。嘉納師範の教えを胸に刻む、宗岡氏の手腕に注目が集まる。【阿部健吾】

 ◆宗岡正二(むねおか・しょうじ)1946年(昭21)5月3日、山口県下関市生まれ。東京都で育ち、都立小山台高から東大農学部農業経済学科に進学。卒業後の70年に新日鉄に入社し、厚板営業部長、秘書部部長などを歴任、08年に代表取締役社長に就任。12年10月の住友金属との経営統合により、新日鉄住金の代表取締役会長兼CEOとなる。趣味は音楽鑑賞(クラシック)、ゴルフ(ハンディ13)。家族は妻、2女。