新体制で再スタートを切った柔道界で、また不祥事が発覚した。天理大柔道部で今年5~7月、4年生部員が1年生部員を暴行したことが4日、分かった。全日本柔道連盟の近石康宏専務理事(64)は5日に関係者から事情を聴取し、迅速に厳正な処分を下すことを明言。天理大も5日に4年生4人の処分を決め、藤猪省太(ふじい・しょうぞう)柔道部長(63)は全柔連理事を辞任する。暴行と隠蔽(いんぺい)。全柔連の宗岡正二会長(67)が就任してから2週間、再建がいきなり出はなをくじかれた。

 「暴力根絶」が遠のいていく。天理大によると最初の暴行は5月中旬、休憩時間外に水を飲んだとして4年生4人が1年生約10人に平手打ちをした。左鼓膜を破られた1人は6、7月にも4年生から暴行を受けた。これらはすべて寮で行われ、部長、監督はいなかったが、この1年生が退部を申し入れて発覚。7月23日には大学側も学外からの問い合わせで事実を知った。すべては学内で処理され、全柔連への報告はなかった。

 さらに、8月21日の全柔連新体制発足では、同部の藤猪部長が新理事に就任した。「柔道界に世話になった身。お役に立てれば」と神妙に話したが、暴行を知りながら要職に就いたことになる。暴行の事実と、それを内部処理で済ませようという隠蔽体質。一連の不祥事の引き金となった女子日本代表における暴力指導と同じことがここでも行われていた。

 ただ、新体制となった全柔連の対応は速かった。夕方には近石専務理事が怒りの会見。「まだこんなことが行われていたのか」とあきれながら、厳正な対応を口にした。5日には奈良から藤猪部長、土佐監督ら柔道部関係者を呼び、事情を聴取。同日に懲罰委員会も立ち上げ、処分を決める。「詳しい報告を待って」ばかりだった旧体制の反省を踏まえたスピード感だ。

 近石専務理事は藤猪部長から電話で謝罪があったことを明かしながらも「非常に憤りを感じている」。同部長からは理事の辞任届が郵送されている。到着と同時に受理されるが「辞任と処分は別。切り離して考える」と、厳罰を示唆した。さらに「暴行が3回あったというが、ただ小突いただけとは思えない」と、警察OBらしく言い放った。

 近石専務理事から連絡を受けた宗岡会長は「柔道界が暴力集団だと思われないよう、スピード感をもってやらないと」と危機感たっぷりに対応を指示したという。山下副会長をリーダーに4月に立ち上げた「暴力の根絶プロジェクト」では9月からの全廃を目指していたが、いきなり暴行発覚。根底からの体質改善がなされない限り、柔道界の負の連鎖は止まりそうにない。

 ◆天理大柔道部

 1925年創部。団体で争う全日本学生優勝大会を11度、制した。部長は70年代に世界選手権4連覇を成し遂げた全日本柔道連盟の藤猪省太理事。男子60キロ級で五輪3連覇の野村忠宏(ミキハウス)や、ロンドン五輪の男子代表監督を務めた篠原信一氏らを輩出した。元世界王者の穴井隆将氏が4月に副監督に就任。現在の主将は世界選手権男子73キロ級で優勝した大野将平。