<フィギュアスケート:グランプリシリーズ第4戦・NHK杯>◇9日◇東京・代々木第1体育館

 今季限りでの引退を表明している浅田真央(23=中京大)が、自己ベストの演技でGPシリーズ2連勝を飾った。SP1位からフリーも1位の136・33点で、合計207・59点とともに自己記録を更新。2連覇で4度目の優勝を果たし、ソチ五輪の代表選考に関わるGPファイナル(12月、福岡)出場一番乗りも決めた。GP通算勝利数も13勝とし、98年長野五輪銀メダルのミシェル・クワン(米国)に並ぶ歴代2位とした。

 目を見開き、歯を食いしばる。「イーー!」と声が出そうな浅田の顔が、会場の大型スクリーンに映し出された。演技後にまず思ったのは「最初のアクセルが(足が)ついちゃったなー」。冒頭のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)は、わずかに右足が氷を削り、回転不足。前日SPと同じ失敗に悔しさがまず気持ちを占めたが「でも、うれしいです。スケートアメリカより今日の出来はよかった」。会場の声援に応えるうちに笑顔を取り戻した。

 演技でも悔しさは引きずらなかった。すぐに気持ちを切り替えた。続く連続ジャンプからスピード感を殺すことなく、次々に要素を決める。「得点は気にしない」と言うが、結果はフリー、合計ともに自己ベスト更新。「守りに入らなかった」と自己評価した。

 代名詞の3回転半が決まらなくても、バンクーバーの自分を超える力が、いまの浅田にはある。その1つがスピンの向上だ。10年から師事する佐藤夫妻に基礎を学ぶ中で、格段に進化してきた。諭されてきたのは「4分の1回転の大切さ」。教え子だった中野友加里が、2位の鈴木と0・17点差で3位に終わった09年全日本選手権のことだ。

 バンクーバー五輪代表の最終選考会であり、その順位の結果も考慮して鈴木が代表になった。中野はフリーの最後のスピンがレベル「3」。2人は「あと4分の1回転回っていたら『4』が取れて、結果は違っていたかもしれない」と浅田に伝えてきた。練習中にジャンプに気がいき、スピンが緩むと、度々指摘した。成果は確実で、この日はレベル3が1つあったが、今季の全3試合でそれ以外はレベル4を並べてきた。

 この日は衣装も「向上」を狙っていた。使ってきた衣装が「少し重くて動きにくかった」と変更。09年ジャパンオープンで1度だけ使った、同じ青と黒を基調にしたデザインの作品に変えてきた。わずかな違いだが細部にまでこだわった。

 優勝会見、永遠のライバルの名前が出た。「金妍児選手とまた戦いたいか」と聞かれると、前をまっすぐ見て答えた。

 浅田

 五輪では復帰してくると思う。またバンクーバーと同じような最高の舞台で、たくさんの注目が集まる中で一緒に滑るのは良い刺激になる。互いに力を出し合えれば。

 故障でGPシリーズを欠場し、12月の国際大会が今季初戦となる金妍児。保持する世界最高点はバンクーバー五輪での228・56点で、浅田との差は約20点。ただ、浅田は得点を気にしない。あるのは競い合うことへの期待感だろう。

 GPファイナル出場も決め、「アクセルの調子は良くなっているので、フリーで2本入れられれば。80%くらいは大丈夫じゃないか」と自信もみせる。失敗の中でも成長を感じる。3年前の自分を超えても、まだまだ伸びしろは十分だ。【阿部健吾】