<柔道:世界選手権>◇第3日◇27日◇ロシア・チェリャビンスク◇女子57キロ級

 女子57キロ級は遅咲きの新星が悲願の優勝。チーム最年長の宇高菜絵(29=コマツ)が、決勝でテルマ・モンテイロ(28=ポルトガル)に反則勝ちし、日本女子としては最年長で初の世界女王になった。

 延長に入っても、宇高は攻め続けた。勢いに押された相手が宇高の足に触れて反則。その瞬間、29歳の新女王は天井を見上げて両手を突き上げた。畳から下りて顔を覆った。「4年間、たまっていたものが出ました」。涙があふれた。

 今年3月25日、父誠二さんが心臓の病気で亡くなった。52歳だった。「かなりオラオラ系で、スパルタでした。でも、柔道は大好きだった」。葬儀直後の選抜体重別で2年ぶりの優勝、世界選手権代表に4年ぶりになった。「諦めない父だった。負けるとメールが来て、次、次、リベンジだ、リベンジだ、って」。

 だから、宇高も諦めなかった。25歳の時に世界選手権に初挑戦。3回戦で敗れ「もうやめようと思った」。それでも現役を続けられたのは、父の支えもあったから。「実業団は成績も残さなければならない。甘い世界じゃない」。昨年11月、28歳の時にグランドスラム東京で初優勝。世界への自信を手にした。

 「4年前とは違う。自分の柔道は通用する」という思いで大会に臨んだ。「世界で弱い」と言われたのは大舞台で平常心を失ったから。弱さをメンタルトレで克服した。帝京大の後輩でもある松本の活躍も刺激になった。大会前に痛めた右膝は万全ではなかった。年齢的にも「1年1年崖っぷち」だ。今大会も「これがラストチャンスだと思って戦いたい」と話していた。それでも、勝った。

 7月末に父の墓参りに行った。「一番近いところで報告するね、と手を合わせてきました」。約束通り、天国に最も近い、表彰台の一番高いところに立った。「力を貸してね、とお願いしながら戦った。表彰台で『ありがとう』と言いました」。ようやく立つことができた頂点で、宇高は亡き父に感謝した。

 ◆宇高菜絵(うだか・なえ)1985年(昭60)3月6日、愛媛県西条市生まれ。西条北中-宇和島東高-愛媛女短大-帝京大。コマツ所属。全日本選抜体重別選手権は優勝3度。10年世界選手権は3回戦敗退。世界ランキング13位。得意は大外刈り。161センチ。