<テニス:全米オープン>◇第10日◇3日(日本時間4日)◇米ニューヨーク・ナショナルテニスセンター◇男子シングルス準々決勝

 身長178センチ、体重74キロ。世界のトップ20で最も小柄な錦織圭(24=日清食品)が快進撃を続けている。身長が2メートルを超す猛者もいる中で、なぜ錦織が勝ち上がっているのか。進化し続ける男の秘密に迫った。

 小柄な錦織が世界と互角に戦えるのは、緩急の技術と相手の裏をかく頭脳にある。時速120キロと遅いサーブでも球にサイドスピンをかけ、バウンドしてから滑らせ、縦回転をかけてはねさせる。それに最速195キロ前後の直線的なサーブを組み合わせ、リズム、タイミング、コースを変え、大男を手玉に取っている。

 ストロークも同じだ。スピンの利いた山なりの球から、スイングの軌道を同じにして、打つ瞬間に、肘の先でスピンやフラットの球種を変化させたり、時には伝家の宝刀、ドロップショットでかく乱する。七変化のショットは、すべて子どものころの遊びの延長だ。裏をかく使い分けを判断するひらめきは、常に「人がしないことをしたい」というのが基本となっている。

 体も変わった。08年の全米デビュー当時は体重70キロだが、今は筋肉がつき4キロ増えた。いくら技があっても時速200キロを超える強烈なサーブに瞬時に反応し、返すには体幹の強さが必要。今大会も右足親指の腫れ物を切開手術した後の半月間、筋トレに明け暮れた。3年前から、年末には陸上ハンマー投げの室伏広治も指導するロビー・オオハシ・トレーナーの下でトレーニングを行っている。

 そして何よりチャン・コーチの存在が大きい。攻撃力に磨きがかかり、バック、フォア両ハンドで角度をつけた巧打を織り交ぜ、引き出しの多さで惑わせる。ワウリンカ戦の第3セット。タイブレークのピンチで、ベースラインの約2メートル後方からバックでストレートを打ち抜いた。大きな一発でリズムに乗り「セオリーに反しているが、自信はあった」と言ってのけた。

 同コーチは175センチの身長で全仏優勝、世界2位にまで上り詰めた人物で、精神力のたくましさこそ強さの源と説く。常に「相手が世界1位でもたたきつぶすつもりで行け」と指示。折れない心を学び、故障明けで迎えた今大会も「絶対いける」と強く背中を押された。師事した今季はツアー2大会に優勝。小柄な体で世界と戦った師の境遇を自らに重ね「チャン・コーチがいるのは心強い。自分のテニスが良くなっているのは彼のおかげ」。強い信頼関係で結ばれ、揺るぎない自信をつかんでいる。