田村藤夫氏(62)が、ロッテの沖縄・糸満キャンプを取材し、ドラフト1位高卒ルーキー松川虎生捕手(18=市立和歌山)の潜在能力を確かめた。

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捕手というのは時間がかかるポジションで、細部を妥協なく見ればどれだけ要求しても足りない。育成に時間がかかるからこそ、ひとたび1軍レベルのスキルを身につけた捕手の選手寿命は比較的長い。

手間暇がかかる分だけ、高卒でプロに入ってきた捕手を見るのはとても楽しみだ。それも高卒ドラフト1位ともなれば、どんなキャッチングをするのか? 肩は強いか? そしてバッティングは? と興味は尽きない。

まず、糸満のブルペンで初見となるキャッチングを見た。ストレートはしっかり受けていた。当然と言えばそれまでだが、ストレートをしっかり球審が見えやすいように受けるということは、キャッチングの根幹になる大切な部分だ。

変化球はどうかと見たが、やはり課題はある。まだ高卒の捕手。そんなに簡単にはいかない。変化球を受ける時にミットが下を向く。ワンバウンドを想定し、いち早くブロッキングの体勢に移りたいがためのことだと思う。ミットの面がやや下を向くと、球審からは見えづらくなる。

いっぺんに改善するのはなかなか大変だ。まず、上体の動きを徐々に小さくして、無駄な動きがなくなるように気を付けるといい。そこから、ワンバウンドに対するブロッキングの動きを身につけた方が、変化球を受ける動作として、しっくり来るのではないか。

捕手としての資質に感じるものもあった。高卒ルーキー捕手とは思えないブルペンでの振る舞いだった。私もコーチ時代に何人かの高卒ルーキー捕手を見てきたが、最初のキャンプは投手とは何も話せないものだ。無理もない。周りははるかに年上の投手だ。まだ高校生が、自分の考えを先輩投手に話せることの方が珍しい。

ともすれば、こびを売ると言えば強過ぎかもしれないが、投手のいいなりという高卒ルーキーは多かった。そういう中で異質だったのは城島くらいか。自分を持っているというか、感じたことをしっかり先輩投手に発信できる強さがあった。

松川にも同じ空気を感じる。まだキャンプ中盤でチームに溶け込むことに必死なはずだが、ブルペンでの様子には卑屈さはみじんもない。いいボールに対して、しっかり声を出す、態度でナイスボールを表現していた。「シュートしてますよ」などの声が出るようになれば、もっといい。

練習の最後にフリー打撃と、特守を行っていた。特守は、まだコーチが加減したボールを投げていたので、ブロッキングなどの動きは対応できていたが、ブルペンのような、より実戦に近い状況で、瞬時に対応できるようになるには、まだ練習が必要だ。

そして、バッティングではティー打撃の力強さが目を引いた。思い切り振っている。これまでのファームリポートで何度も指摘してきたが、強く振れるということは大事だ。ここは、大きなプラスポイントになると感じた。フリー打撃では、力強さよりもミートを意識しているように感じた。自分なりにテーマを持って臨んでいるのだろう。

高卒ルーキー捕手として、どこまで1軍キャンプに食らい付いていけるか。ここからは、松川にとっても試練の連続となるが、1日でも長く1軍に帯同できることが今後への財産になると思い、がむしゃらにやってほしい。体は強そうで、スタミナもありそうだ。

最後に、フリーバッティングの終わりに、バッティング投手に向かってきちんとヘルメットを脱ぎ「ありがとうございました」とあいさつをしていた。そんなところを評価の対象にすることに、古くささを感じる読者の方もいるかもしれないが、礼儀、マナーは一時も忘れてほしくない。この姿勢をベテランになっても貫いてほしい。

ソフトバンクのコーチ時代、まだ若い甲斐が同じ状況で、ヘルメットのつばに手をやりながら、ちょっと省略形のあいさつをした。私は「バッティング投手に投げてもらい、お前は打たせてもらっているんだぞ」と話したことがあった。その時の神妙な甲斐の顔を今も覚えている。

裏方さんへの感謝を胸に、これから松川はプロの厳しさの中にどっぷりつかる。苦しむこともある、失敗することもある。それでも、自分を支えてくれる存在を決して忘れず、汗にまみれてほしい。(日刊スポーツ評論家)

ブルペン捕球するロッテ捕手の松川。手前は田村氏(撮影・江口和貴)
ブルペン捕球するロッテ捕手の松川。手前は田村氏(撮影・江口和貴)