「回転数」「回転軸」が注目されている。計測できる機器が開発され「いいボールとは?」の解明に一役買っている。筑波大硬式野球部の監督で、同大准教授の川村卓氏(49)に「動作解析」の視点から聞いた。

  ◇   ◇   ◇  

川村氏 回転数を中心とする投球の質を説明することが難しいのは「回転軸」「回転数」「球速」の3つを同時に見ないといけないからです。回転数があるからいい、回転軸がいいから抑えられると、簡単に決められないのです。一般的に、いずれかの数値が他と比べ高かったり、逆に低かったりする投手が、打ちにくいといえます。

回転軸、回転数とはどういうものなのか。

 
 

川村氏 投手は、オーバースローでも実際には少し斜めから投げています。地面に対して、回転軸も少し傾いています。20~30度ほどシュート回転するくらい傾いているのが平均。回転軸が真っすぐになるほどタテの回転がかかりやすく、打者の手元でホップしてくる。昨夏、甲子園で活躍した金足農の吉田投手(現日本ハム)がそう。回転軸が0度に近いところから投げるので、非常に伸びていたのです。

回転軸に対し、ボールの回転数はどう関わってくるのだろうか。

 
 

川村氏 科学的な説明になるのですが「マグヌス効果(マグヌス力)」が重要です。ボールは、進行方向とは逆の回転をしながら進んでいきます(バックスピン)。空気は正面から流れてくるので、ボールの上面は空気の流れに対して同じ回転で、一緒に進んでいきます。一方で、ボールの下面は向かってくる空気とぶつかるので、下に空気のよどみができます。つまり空気の流れは、ボールの上面は速く、空気の流れがあるので圧力が低い。一方、下面は空気の流れが遅く、圧力が高くなる。圧力は密集したところから、少ないところに力が働く。下から上に引っ張られる力が加わるので、ホップして見えるわけです。

「手元で伸びる」「ホップする」とされる球は、マグヌス効果によるもの。回転数がある選手は、大きな空気の抵抗を起こすことができるというわけだ。

川村氏 変化球、例えばカーブは直球とは逆の回転で、ボールの上と下では圧力のかかり方が逆になるため、落ちていくように見えます。回転軸でいえば、マグヌス効果は真上にかかるので、0度に近いほどその効果が高く、軸を傾けることによって、さまざまな球種に展開していくのです。

回転数が高く、回転軸が真っすぐに近い投手はマグヌス効果の影響が大きいため、球速が速くホップする球が投げられるといえる。

川村氏 リリースの瞬間、人さし指、中指で加える力が強いほど、球速は上がる。同時に、回転をかける力にもなるので、回転数が高い人は球速も速いということになります。日本のプロ野球の平均は2200~2300回転。メジャーの平均は2600回転にもなります。

自分の投球を数字として把握し、調子やボールの効果に使うことが、より幅の広い投球を生む。(つづく)【保坂淑子】

スポーツ科学で野球を研究する筑波大学・川村監督(撮影・保坂淑子)
スポーツ科学で野球を研究する筑波大学・川村監督(撮影・保坂淑子)

◆川村卓(かわむら・たかし)1970年(昭45)5月13日、北海道江別市生まれ。札幌開成の主将、外野手として88年夏の甲子園出場。筑波大でも主将として活躍した。卒業後、浜頓別高校の教員および野球部監督を経て、00年10月、筑波大硬式野球部監督に就任。現在、筑波大体育系准教授も務める。専門はスポーツ科学で、野球専門の研究者として屈指の存在。