現在、ハワイで暮らす森は米国の野球本にも目を通している。そこで、はたと膝を打つ文章に出合った。

「アメリカのいろんな本の中に、こんな言葉がある。『ベンチの弁護士になるな』と。簡単にいえば、ミスした選手を『いいよ、いいよ、またな』と弁護してはいけない、ということ。選手同士で『そのぐらいのことも分からないのか』と言わないと。ミスに対し、お互いが傷をなめ合っていたら強いチームじゃない」

わが意を得た気持ちだった。野球の母国には、自分と同じ哲学が息づいていると知ったからだ。「古い話だが」と切り出した。

「ジャイアンツのV9の時だって、選手間で相当強く言い合った。たとえば、カネやん(金田正一)が投げていて、左中間に球が飛んだが、外野手がちょっとスタートが遅れ、捕れない。カネやんが怒る。それに対し、外野手も『ノーサインで何を投げるか分からないのにスタートが切れるか』と言い返す。やはり、そういうものじゃないかな。自分に与えられた仕事に懸命になればなるほど、そうなっていくと思う」

相手が400勝投手だろうが関係ない。川上巨人の活発な空気は、森を通して20年後の西武に引き継がれた。連載の第3回で紹介したエピソードをあらためて記そう。

ふがいない投球が続いた潮崎哲也が、試合中のマウンドで石毛宏典から「お前の背中は、みんなが見てるんだぞ」とカツを入れられた。こういう選手間のやりとりを、森は歓迎した。チームは、いつもうまくいくわけではない。うまくいかない時にこそ、真価が問われると考えていた。

「チームの中で本当の強さが芽生えてくるのは、つまらんミスをした時だ。選手同士で『何やってんだ』と、言うことは言う。けんかじゃないんだ。そういう風に言えるようになったら、チームがまた一段上に上がった証拠だろうな」

黄金時代の西武では、自己中心的な振る舞いは淘汰(とうた)された。勝利という目標へ、個々がピースに徹することができた。

「やはり、選手が自分に与えられた役割を100%近く、こなしてくれたということよ。先兵は、いかに塁に出るか。塁に出れば、中軸がかえす。しかし、中軸は『先兵が塁に出ていたからこそ、自分は脚光を浴びられるんだ』と。みんなのおかげ、という意識が非常に強かったよ」

どうすれば勝てるかを追究したチームだった。フロントと現場が一体となった補強。徹底した鍛錬と意識付け。現実を見定めた森の采配。それに、己の役目を分かった選手がこたえる。それらすべてが絡まって、9年間で8度のリーグ優勝、6度の日本一として結実したのだ。(敬称略=つづく)【古川真弥】