<イースタンリーグ:ヤクルト1-4日本ハム>◇4日◇戸田

ファームに特化して、試合からテーマを探る田村藤夫氏(62)は社会人野球出身の左腕、河野竜生投手(23=JFE西日本)の内角球の使い方に注目した。19年の日本ハム・ドラフト1位は3年目に入った。

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長くプロ野球界に携わってきたため、気が付けばいくつかの法則が必ず頭の中にある。こうしてファームの試合を見る時も、この法則は選手を観察する際の基準になっている。

投手であれば、やはり内角球の必要性は外せない。このリポートの中でも何回か指摘させてもらったが、左投手が左打者の内角へ、同様に右投手が右打者の内角へ、厳しいボールを投げることは、投手にとって避けては通れない。

先発した河野は5回を投げて2安打無失点。8奪三振の好投だった。この日の球審は左打者外角球のストライクゾーンがやや広めで、河野はその傾向を頭に入れ、見事な制球で打ち取っていった。ヤクルト打線は5人が左打者。快調に投げ進む中で、私はただ一点に絞って見ていた。左打者への内角球はどうか-。ここがポイントだった。

河野が左打者に内角球を使ったのは2球だけ。5回無死二塁で、この試合の14打者目となる松本友が打席へ。ストレートとカットボールが外れて、カウント2-0。ここで内角にストレートを投げてボール。3ボールから外角でストライクを奪い、3-1から再び内角にストレート。これを松本友が見逃してストライクとなり、フルカウント。最後はチェンジアップかフォークボールで、セカンドへのゴロが内野安打となった。

無死二塁で、バッティングカウントの2-0から内角に投げたのには驚いた。打者からすれば引っ張りたい場面で、長打の確率が高まる。さらに言えば、引っ張ってゴロになっても進塁打となり1死三塁にチャンスは広がる。

さらにカウント3-1から再び内角へ。ここでもバッティングカウントで、先述した状況から、危険な内角球と感じた。松本友が見逃したのも意外だったが、かなり際どい場面での内角球だったなと、考えさせられた。

無死二塁の状況で、左打者の立場からすれば、ここで引っ張れる内角球は考えづらいという意味では、裏をかいて内角に投じたとも言える。わずかにコースが外れてボールになったが、これがストライクになっていれば、狙い通りにカウント2-1にできたかもしれない。

私は河野の力量からいって、1軍のローテーションを担えるものがあると感じている。これから育成する投手ではない。すぐにでも1軍で戦力になるべき左腕だろう。となれば、ファームで投げる時、1軍を想定して投げる必要がある。

1軍を想定するというのは、「まずは左打者をいかに抑えるか」ということになる。右打者に打たれていいということではなく、左投手の1つの強みとして左打者をいかに攻略するか。そのためには内角球が必須になる、ということだ。

試合の中で、ここぞという場面においては、内角へ厳しいボールを投げきることが必ず求められる。打者に踏み込ませないためで、厳しい内角球が布石となり、それによって投球の幅が生まれ、結果として打ち取る確率が高まる。対して、甘い内角球は当然のごとく1軍では打たれる。そして、外角球一辺倒でもいずれ捕まる。

2-0からの内角球はコースは外れたが、打者をのけぞらせるほどの厳しいボールではなかった。むしろカウントを取ろうとしたボールに見えた。そして3-1からの内角球は甘いインコースよりだった。おそらく、1軍では仕留められている可能性が高い。

意図的にバッティングカウントで、内角にどれだけ制球できるか試したのかもしれない。1軍を念頭に置くならば、不利になるバッティングカウントで内角球を使うことは考えづらい。この日の河野と球審の相性ならば、内角球をまったく使わずに投げきることもできただろう。それでも内角球を使ったのには、問題意識が頭の中にしっかりあったのだろう。

1軍の試合で走者を背負った場面で左打者と対戦する時、内角を厳しく攻める必要性がある。ボール球で打者をのけぞらせる。言葉にすると簡単だが、これはレベルが高い話だ。

内角は甘く入れば長打になり、制球をあやまると死球となって自分の首を絞める。ピンチで左打者の内角を攻めるというのは、本当の意味での制球が求められる。腰を引かせる、のけぞらせる、その狙い通りのボールを操れてはじめて、自信をもって1軍のマウンドに立てるようになる。

この試合で、この場面で内角球を使ったのは、もしかすると疲れも出始めた5回、そして無死二塁での左バッター、さらにカウント2-0のバッティングカウントで、あえて厳しい状況の中で、1軍を想定したのかもしれない。それは河野-清水のバッテリーに聞かなければ正解はわからないが、スタンドから見ていた私としては、考えさせられる2球として強く印象に残った。

野球は常に進化するスポーツだ。いろんなピッチングの手法が出てくる。0-2から1球外すボール球の使い方に関し、いろいろな議論がある。いつまでも固定観念に縛られているのは良くないとは感じる。その一方で、やはりいつの時代も、打者を踏み込ませないことの重要性は廃れないのではないか。そのためには、内角球を磨く技術も、やはり生き続けるものと感じる。(日刊スポーツ評論家)