プラカード嬢の夏が完結した。本来の“出番”からは、約1カ月遅れの今月19日。毎年夏の甲子園の開会式で先導役を務める市西宮(兵庫)の女子生徒たちが、今年も甲子園を彩った。

先導役は、1949年の31回大会から同校の2年生女子生徒に受け継がれてきた伝統行事。今夏は甲子園大会の中止により、伝統は一時、途切れた。97年から指導役を務めてきた青石尚子教諭は「今年で72年目で、1回歴史が途切れるという気持ちはありました。人数が少なくても、チャンスをいただけたのはありがたかったです」と感謝した。

今回の優勝旗返還式は、同校の定期試験や部活動の新人戦の時期と日程が近かったため、その旨を説明した上で校内オーディションを実施。例年は65人が選出されるが、今回は15人(うち2人が補欠)。それでも、“復活”の舞台を目指し、91人の応募があった。

本番を迎えるまで、練習は1日のみという、ほぼぶっつけ本番。さらに、今回は例年の入場行進とは歩くコースも違う。「不安は不安でした。でも、30分くらいのリハーサルで1回歩くと彼女たちは覚えてくれましたね」。眺めていた側からすれば、そんな突貫工事を感じさせない例年通りの凜(りん)としたたたずまいだったのは、さすが伝統の一言だ。

当日の入場行進。プラカードや国旗を手に、昨夏優勝の履正社ナインを、右翼から内野まで堂々と先導した。舞台はわずか35分間だった。それでも、620人の一般客にも見守られ、今年も大役を全う。歴史は途切れることなく紡がれた。「甲子園が中止になったのは米騒動と戦争だけ。31回大会から間が空くことなくプラカード役を務めて、優勝旗返還式は史上初。えらい歴史の中にいさせてもらうことになった。すごい経験をさせてもらったと思います」。履正社・岡田龍生監督(59)と、晴れ舞台を分かち合った。

主催者側の配慮でプラカードは2枚用意された。「前年度優勝校」を持った寺崎桃杏奈さんは「中1の頃から憧れていた。家の廊下で竹の棒を持って歩いてました」。「履正社」を持った今徳夢乃さんは「甲子園の土を踏むことが出来て良かった」と晴れ舞台を喜んだ。無観客、春夏の甲子園中止。未曽有の事態に包まれたが、聖地の“華”は72年間変わらずに咲いていた。【望月千草】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」