伊藤将司には謝らないといけないかもしれない。前回先発したのは1日広島戦(甲子園)。この試合、伊藤は1、2回と三塁まで走者を進めながらも無失点だった。結局、3回表が終わったところで雨のためノーゲームに。そのとき「阪神には有利なノーゲーム。伊藤もルーキーだけに他の先発投手と比べ、期待度は違うはず」と書いたのだが、なんの、堂々の好投だ。

これで4試合で3連勝ときた。阪神の新人投手が開幕から3連勝するのは84年の池田親興以来らしい。懐かしい名前が出たものだ。若い人は知らないかもしれないが池田はかなり“特別な投手”である。

阪神が唯一の日本一に輝いた85年シーズンで「2度の開幕投手」を務めている。まず入団2年目ながらシーズンの開幕投手を任された。そして西武を相手に戦った日本シリーズでも開幕投手の大役を務め、おまけに西武打線を相手に完封勝利しているのだ。

伝説的な出来事にも見舞われた。「僕はメジャーで成功した野茂英雄よりも先に米国で映像が流れた投手です」。かつて池田自身から聞いたエピソードだ。

87年5月6日、ヤクルト戦(神宮)に先発した池田はこの試合で「赤鬼」の異名を取ったホーナーに3本塁打を浴びている。当時、ホーナーは大リーグ球団との契約でもめたこともあり、来日する形に。米国内でも動向が注目されていた。その結果、スポーツニュースでホーナーに本塁打される池田の映像が流れたのだという。

「翌日、同僚だったバース、キーオに『ごちそうさま』と言われて。いっしょに食事してないじゃん? と思ったら『ホーナーにおごってもらった。ヤクルトの監督賞でね』。オレが打たれた賞金かい! と」

こちらは笑い話の類いだが、そんな伝説を持つ投手の名前が出てくるのは悪くない。阪神が優勝に近づけば近づくほどこういう話は出てくるはずだ。

そして、この日のスタメン。伊藤に加え、佐藤輝明、中野拓夢とルーキーが3人も並んでいた。しかも先発投手、4番打者、そしてセンターラインの遊撃手である。目の前で普通にやっているからなんとなく見ているが、冷静に考えれば途方もない展開だろう。

秋に悲願のリーグ優勝を果たし、のちに「あの年は新人がとんでもなかった」と言われるようになれば本当に面白い。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)