「打たれろ! 命まで取られへん! そんなん、お前の責任やない! むちゃくちゃしたれ!」

さすがにそうは言ってないだろうな、言ってたらおもろいけどと思ったが、やはり違ったか。ルーキー伊藤将司が明かした“魔法の言葉”は「思い切っていけ、お前に任せた」。心に響けば何でもいい。

2点をリードした7回裏は2死満塁。代打・松山竜平という場面だ。このピンチで指揮官・矢野燿大がマウンドに向かった。ここで“あの場面”を思い出した虎党もいたのではないか。

阪神が最後に優勝した05年9月7日。ナゴヤドーム(当時)で行われた中日との首位攻防戦だ。抑えの久保田智之(現2軍投手コーチ)が同点にされ、サヨナラ負けのピンチだった9回。本塁へのクロスプレーを巡って当時の指揮官・岡田彰布は猛抗議したが覆らず異様なムードが漂っていた。そこで岡田が久保田の元に向かった。かけた言葉が有名な「むちゃくちゃしたれ…」だ。

「そう言われたのは本当です。『こんな試合、勝ち負けとかどうでもいい。(死球を)当てて終わってもエエぞ』とか。自分が登板して追いつかれたし『しまった』と思っていた。そこで監督に出てきてもらって。気持ちは楽になった」

のちに久保田に聞いた話だ。捕手だった矢野もあの言葉で開き直り、大胆なリードに出た。「よっしゃ!」とばかり、インハイのストレートを要求し続けたのだ。それに応じた久保田は代打・渡辺博幸、ウッズを連続三振、すべてストレートで切った。

「インハイばかり。普通はあの状況では投げられない。でも矢野さんが要求してきた。そりゃキッチリ突けたら一番抑えられるコースだけど、なかなか投げられるものじゃない。でもあのときは当てても仕方がないと思ったら投げられた」

有名なセリフはバッテリーの打者への攻め方、配球にも影響した。そして延長戦の末、阪神はこの試合を取り、優勝をたぐり寄せる結果になったのだ。

岡田と矢野を比べれば、話し方、様子は全然違う。場面もあのときは違った。それでも同じ大阪人、マインドが似ている部分もあるのだろう。行かなあかん。行くときや。矢野はそう思った。だから行ったのだ。それが成功した。別に行っていなくても…などという仮定の話は不要。正念場でいい勝利だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

広島対阪神 勝利を祝う矢野監督(中央)ら(撮影・上山淳一)
広島対阪神 勝利を祝う矢野監督(中央)ら(撮影・上山淳一)