いいものを見せてもらった。1点差に迫られていた7回の守備だ。2死一塁からサード佐藤輝明が失策。ピンチが広がった。内野陣がマウンドの青柳晃洋を中心に集まる。ここで青柳はこれ以上ない笑顔で佐藤輝に何ごとか話し掛けたのだ。佐藤輝は表情は変えなかったがこれにうなずいた。

「大丈夫。任せておけよ」。内容は分からないけれどそんな様子だった。はたして青柳はこわい坂本勇人を遊ゴロに切り、ピンチをしのいだ。それが1点差勝利につながった。

エースの素養は何か。相手打者を抑えるのは当然。同時に重要なのは味方がミスしたとき、それをカバーすることだ。失策が出て、それを理由にガタガタするようではエースとは言えない。そういう意味でも青柳には素養があると思う。

優しそうな見た目と違い、青柳はガッツの男だ。この日は2死球。最近は影を潜めた制球難だが、かつては荒れ球でリーグでも死球が多い投手だった。それについて聞いたときだ。

「狙って当てているわけじゃないし、気にしていません。コースを狙って攻めていった結果。ビビッて自分のボールを投げられない方がダメだと思う」。そう話した。腹が据わっていると感じたものだ。

打線は相変わらず苦しい。それでも青柳の活躍もあって指揮官・矢野燿大の3年目、阪神は1つの節目を迎えた。巨人戦勝ち越し。07年以来、14年ぶりという。長く苦しめられた宿敵を下した。この勝利で巨人の今季優勝が完全消滅。「伝統の一戦」で引導を渡す形になったのだ。

その裏で中日がヤクルトに逆転勝利した。矢野と現役時代にバッテリーを組み、同じタイミングで中日監督に就任。今季限りで指揮官の座を辞すことになった与田剛が矢野をアシストしているような気もした。

巨人の3連覇を阻止して優勝-。大目標で戦ってきた今季だが予想と違って、ヤクルトに追い込まれている。この日はゲーム差を縮めたものの、ヤクルトの優位は変わらない。

それでも。ここで巨人に負け、ヤクルトが勝っていればいよいよ流れが加速するところだった。もう少し、楽しませてほしい。もちろん、その先に“奇跡”があれば最高なのだが。まずはもう少し楽しませてほしいのだ。まずは13日。打線の奮起で菅野智之を攻略し、虎党を沸かせてくれ。それが見たい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)