それやんか。思わず口にしてしまった。6回、1死から投手前に島田海吏がセーフティーバントを決めた瞬間だ。佐藤輝明の適時三塁打で1回に先制したものの後が続かない。3、4、5回と“9者凡退”。投手が青柳晃洋なので、まだマシだったが次第にわき上がってくる“逆転負け”のムードを感じた。

それをラクにしたのが島田のバント安打だ。これで呪縛が解かれたように近本光司が今季1号2ラン。流れは阪神に傾いた。島田は1回に犠打も決めていたし、バント安打で気をよくしたのか7回には三遊間へ流し打ちのシブい安打も放って大量点に貢献。チームだけでなく自分もラクにしたバントだったと思う。

虎党やメディアから批判されたのは前日の広島戦だ。1点を追う3回2死一塁で一走・中野拓夢の場面。盗塁も期待させるところで島田はいきなり初球を打ち上げ、中飛に倒れた。ここでも触れたが状況的にも2番打者としても褒められたものではなかった。

それを取り返すようなこの日の働き。そもそも島田に求められているのは俊足を生かした“イヤらしい打撃”だろう。1番・中野、3番・近本に挟まれている現状なら、もっとバント安打を狙ってもいいのではないか。それで内野手が前に出てくれば思い切りたたいていく。もちろん簡単でないかもしれないが自身の特徴を生かした打撃に徹すれば、さらに輝くと思えて仕方がない。

思い出すのはルーキー時代のオープン戦だ。18年3月3日の敵地ソフトバンク戦に「2番中堅」として新人でただ1人、スタメン出場。しかしバンデンハーク、サファテという強力な投手たちの前に2つの空振り三振を含む3打数無安打に終わった。

2月のキャンプでは目立っていたが、ここでしっかりプロの洗礼を浴びた格好だ。「足を見せる場面をつくりたかったけどダメでした。スイングスピードもないし、まだまだ試合に出られるレベルじゃないな、と思います」。そう言って率直に反省する姿が好ましかったのを記憶する。

あれから4年がたった。連日スタメンで出場するまでに成長してきた今だからこそ、もう一度、自身の特徴をしっかり生かして、チームに貢献してほしいと思う。「俊足左打ち3人衆」でのかく乱が熱い7、8月の戦い、上位浮上への重要ポイントだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

ヤクルト対阪神 1回表阪神無死一塁、投犠打を決める島田。投手高梨(撮影・横山健太)
ヤクルト対阪神 1回表阪神無死一塁、投犠打を決める島田。投手高梨(撮影・横山健太)