甲子園で行われた藤浪晋太郎の“送別会見”にお邪魔した。この日は年間予約席購入を検討する人が少し客席に入っていたけれど、ほとんど観客がいない前で行われたセレモニー。スーツ姿でグラウンドに立ち、同僚からの声援動画を見ていた藤浪。「1人だったら泣いていましたね」。そう話し、感激していた。

いろいろな見方はあるかもしれないが、やはり阪神にとっての“功労者”だと思う。鳴り物入りの入団から3年連続2桁勝利は立派だし、その後、不調が続いたときでも看板選手に違いはなかった。「アンチ藤浪」の虎党は期待が裏切られての結果かもしれない。

ファンでもそうでなくても、阪神が好きで藤浪を無視することはできなかったはず。プラス面、マイナス面を含め、藤浪自身が言うように「タイガースの藤浪」は虎党の記憶に残るものだ。だからこそ「チームとして送り出そうという意味でのセレモニーです」(球団関係者)なのだろう。ここは素直に送り出したい。

そうは言っても、もちろん、大リーグ挑戦は甘くない。「日本でダメで、なぜ米国で通用すると思うのだ」という厳しい見方もあるだろう。個人的に気になるのは球数のことだ。

アスレチックスでは先発起用される方向のようだが、ご存じのように大リーグは球数制限が厳しい。藤浪と言えば、それこそ何球でも投げられる馬力が最大の売りだが、そういうわけにはいかない。制球難に苦しんだこともあるだけにどうとらえているか。そこを聞きたかった。

「そうですね。遊び球とかカウント球をなくして、どんどんストライクを取っていく、そういうことが大事でしょうね」。そんなことは分かっているよとばかり、藤浪は明快に答えた。

独断で言わせてもらえれば、それこそ多くの人がこれまで藤浪に求めていたことかもしれない。「あの真っすぐとフォークがあるんやないか! ドンドン攻めていかんかい!」。テレビの前でそう叫んだ方も多いだろう。

そのストライクが入らなかったらどうなるんだろう…と思ったりもしないが、昨季、後半の様子を見ていれば、そこはもう大丈夫と思いたい。いざ、ストライク勝負の世界へ-。パワーで押しまくる阪神出身・藤浪の活躍に期待したい。それを楽しむためにも送り出した阪神の躍進は不可欠なのだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)