甲子園最多63勝の高嶋仁監督(69)が率いる智弁和歌山が3年ぶり21回目の出場を決めた。4回にスクイズで先制し、8回は主軸の山本龍河外野手(3年)がダメ押しの適時打。エース斎藤祐太(3年)が和歌山商打線から10三振を奪い、3安打完封で昨夏決勝敗退の無念を晴らした。

 1年前の汗と涙を知る帽子を、斎藤は握りしめた。1年前の悔し涙がこの日はうれし涙に変わった。「一番大事な試合で投げきることができました」。塩辛いはずの涙も甘い味がした。

 忘れもしない7月26日。市和歌山に延長12回サヨナラ負けし、2年連続で夏の甲子園を逃した昨年の和歌山決勝と同じ日だった。「昨年のきょうやったんや。頑張らなあかんな」。体にみなぎる力があった。

 2回に四球と失策で2死一、三塁の危機を招くも、一塁邪飛でピンチを脱出。直球、スライダー、チェンジアップで空振りを取り、左腕の角度もスリークオーターから時折下手に変えた。「まっすぐでインコースを突いて行けた」という自在の投球に、気持ちの強さが重なった。

 昨夏決勝で7回途中降板に追い込まれたのも、左手薬指骨折が原因。6月の練習試合で打球を利き手に受けた。1年夏は左肩痛に泣いた。それでもこの日、投手を強襲する打球にもひるむことなく体で止めた。

 決勝点はセーフティスクイズ。4回無死一、三塁で相手ベンチが伝令を送った間に、高嶋監督が意思を伝達。タイムが解けた直後の初球、高垣鋭次内野手(2年)が投前に転がした。「きょうの相手投手の出来なら連打は望めないから」と監督は語ったが、6月からスクイズの練習を始めていた。さらに大会開幕直前に大阪桐蔭、敦賀気比(福井)など昨夏、今春の甲子園優勝校と練習試合を組んだ。斎藤を仕上げるための最後の準備。大阪桐蔭を5回1安打無得点に封じるなど好結果を続けたエースに、監督も手応えを感じていた。この日の斎藤なら、1点でも十分。8回の山本の適時打で勝負は決まった。

 高校野球100年の夏に帰還する最多勝監督は「神様のおかげです」と笑った。87年の初出場から3年連続の和歌山敗退は智弁和歌山の歴史にはなかった。緻密な練習も、エースの成長も3年ぶりの夏につながった。斎藤は「どんなときも監督が“エースはお前”と言ってくださった。その言葉に支えられました」と泣いた。重くてうれしい言葉だった。【堀まどか】

 ◆智弁和歌山 1978年(昭53)創立の私立校。生徒数786人(女子341人)。野球部は79年創部、部員数30人。甲子園出場は春11度、夏21度目。優勝は春1度、夏2度。OBにヤクルト武内晋一、日本ハム西川遥輝ら。所在地は和歌山市冬野2066の1。藤田清司校長。

◆Vへの足跡◆

2回戦9-0有田中央

3回戦8-1桐蔭

準々決勝4-3市和歌山

準決勝6-1箕島

決勝2-0和歌山商