悲願に王手をかけた。仙台育英(宮城)のエース右腕佐藤世那(3年)が今大会初完封して、チームを準優勝した89年以来26年ぶりの決勝に導いた。早実(西東京)のスーパー1年生、清宮幸太郎内野手を1安打に抑えるなど、散発の6安打。3回にはけん制で二塁走者を刺すビッグプレーも飛び出した。完勝した仙台育英は、今日20日の決勝で東海大相模(神奈川)と対戦。高校野球100年の節目に、東北勢初優勝をかける。

 「大旗の白河越え」が、はっきりと見えた。佐藤世が完封で大一番に弾みをつけた。「東北勢を破ってきた。みんなの思いを背負って、勝つつもりでやる」。第1回大会が行われた100年前の1915年(大4)。秋田中が京都二中(現鳥羽)に敗れたのを皮切りに、春夏合わせて10度決勝に進んだ東北勢は、ことごとく敗れ去った。節目の年にこれ以上ない筋書きができた。

 ビッグプレーだった。3回表に3点を先制した直後の裏の守備は、2死満塁のピンチ。遊撃の平沢大河(3年)からのサインで二塁走者をけん制で刺した。「1発けん制」と明かす、打者に集中していると見せかけて「めったに使わない」(佐藤世)“裏技”。流れを引き渡さなかった。

 注目の清宮との対決は、4打席で内野安打1本に封じた。「気持ちだけは負けないように投げた」。3試合2桁安打の早実打線に、フォークを有効的に使った。奪三振は3個と少ないが、打たせて取る投球で手玉に取った。佐々木順一朗監督(55)は「強力打線を完封するなんて、夢にも思わなかった」と驚いた。

 「世那の育英」と言われ続けてきたが、支えているのは仲間だ。打ち合いが予想された中「点を取られても取り返す」と、打撃陣が励ましてくれた。右肘の不安を抱えた春、不調が続いた夏の宮城大会も「みんなが(僕を)見捨てなかった。それが一番印象に残っている」と実感を込めた。打線は全5試合で先制点を挙げた。1度もリードを許さず、4試合に先発したエースを援護。精神的にも投げやすい状況をつくる。

 東北対決に敗れた3回戦の花巻東(岩手)、準々決勝の秋田商が、試合終了時の整列後に「優勝してくれ」と佐々木柊野主将(3年)に悲願を託した。仙台育英は89年夏、01年春と決勝は2度涙をのんだ。東海大相模との決戦に、佐藤世は「先頭を出さないこと」と気を引き締め「人の気持ちを考えて投げようかなと思う」とも言った。みちのく勢100年の思いも込め、今日20日、高校野球の歴史を変える。【久野朗】