無念だ。“イシイチ旋風”は数センチ差で吹かなかった。2-2の延長11回裏1死満塁、石岡一・岩本は170球目の142キロで盛岡大付・島上に投ゴロを打たせた。「本塁封殺を狙ったけど、捕球体勢が悪かった」。送球を引っかけた。ボールは捕手・中山のミットをかすめ本塁後方へ。サヨナラを許し、右膝をついた。

21世紀枠で初出場。147キロ右腕は造園科で学ぶ。同じ公立農業系で、昨夏に旋風を起こした金足農・吉田輝星(現日本ハム)が目標。球場入りのバスでも、吉田の奪三振動画で気分を高めた。8回まで11奪三振、無失点。2-0の9回は2死二、三塁で小川を1-2と追い込む。あと1球だったが同点打を浴びた。

涙をのんだが、そもそも舞台にすら立てなかったかもしれない。昨年9月1日、日本ウェルネス(東京)との練習試合は散々だった。ムキになって直球を投げ、打たれるの繰り返し。3回11失点で降板。川井政平監督(44)に突き放された。「他の高校に行った方がよかったんじゃないか」。

ショックだった。この人のためにと、地元校の門をたたいた。「でも、あれがあったから。次の日から1日1日を大切にしようと」。変化球の大切さを痛感。緩いスライダー1本だったのを、小さく曲げるものも学んだ。幅を広げ、昨秋、明秀学園日立、土浦日大と私学を撃破し県4強に。川井監督は「一言で全てが壊れるかも知れない。“かけ”でした。(岩本)大地が素直だった」と述懐する。

岩本は、自宅に1枚の紙を大事に取っている。中3の10月、川井監督が学校説明会で八郷中を訪れた時にもらった名刺だ。裏に「一緒に甲子園に行こう」と書いてくれた。強豪私学の誘いを断った。「私立を倒す喜びがある」と信じた。

虚脱感をぬぐうように言った。「今回は選ばれた甲子園。最後の夏は自分の力で茨城を制して、また川井先生を連れてきたい」。あの日の敗戦があったから成長できた。そう言える日が来るはずだ。【古川真弥】

▽石岡一・川井監督(岩本に)「本当に良い投球をしてくれた。打線がもっと援護できれば報えたが、勝負どころで気持ちが入っていた」

▽石岡一・中山(11回、岩本の悪送球に)「自分が止めていれば2死満塁で、まだ戦えた。申し訳ないです」