サイン、盗まなくても打てます。龍谷大平安(京都)・原田英彦監督(58)が史上16人目の甲子園通算30勝を達成した。投打がかみ合い、完勝で3年ぶりの8強入りを果たした。

偶然にも、全9得点が二塁に走者を置いた状況で生まれた。二塁走者によるサイン伝達疑惑が話題になる中で、クリーンな野球を宣言して試合に臨んだ名将が底力を発揮した。

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騒動の余韻が甲子園に残っていた。原田監督は試合前からサイン伝達について質問を受けた。「うちの選手は言わないでも分かっている」と一切の伝達行為をしていないことを宣言し、選手を送り出した。

ふたを開けると、相手の先発は左腕阿部ではなく右腕の木内。「全く想像していなかった。映像も見ていない」と困惑した。だが、初回から襲いかかる。奥村の押し出し四球で先制すると6番三尾が2点左前打で、いきなり3点を先取。指導歴26年で養った眼力で、的確な指示を出していた。

試合前、木内がブルペンで変化球を低めに集めているのを見ると「低めをしっかり見切れ」とナインに伝えた。普段は落ちる球が苦手という三尾が10球も粘り、コンパクトに振って三遊間をしぶとく抜いた。

5回、盛岡大付は阿部にスイッチ。「低めのチェンジアップは絶対振ったらアカンと。それができた。やればできるチームです」。6~8回に西川、中島、水谷、西川、多田と適時打を連ね、試合を決めた。二塁に走者がいた13打席は10打数6安打、2四球、1犠打。次に来る球を知らなくても、チャンスで打った。

選手は前夜、星稜と習志野の騒動があったことを伝えられ、疑わしい動作をしないように言われていた。だが、水谷主将らは「全く気にならなかった」と口をそろえ、騒動の影響はなかった。日ごろの備えもある。龍谷大平安は、相手走者を観察する選手を決めて常にベンチで目を光らせている。疑わしい動きがあればサインを増やしたり、変えたりして対応。これまでに何度か経験済みだ。

原田監督は「だいぶ本来の姿になりつつあるけど、まだまだ重い。もっと元気になるはず」と快勝にも七分咲き宣言。5年ぶりセンバツ制覇を予感させる横綱相撲だった。【柏原誠】

◆監督通算30勝 龍谷大平安・原田監督が16人目となる甲子園監督通算30勝目。初勝利は97年春。