19年野球界の主役、大船渡(岩手)佐々木朗希投手(3年)最後の夏が、いよいよ開幕した。遠野緑峰との初戦に「4番・投手」で先発登板し、2回無安打2奪三振無失点。4月に出した最速163キロの直球を封印し、緩急で打たせて取る術を披露した。打っても1回1死一、二塁から右越え先制2点適時三塁打。野球少年に戻ったかのような楽しげな表情で、190センチの大きな体を躍動させ、14-0の5回コールド発進へ導いた。18日の3回戦では一戸と対戦する。

「4番ピッチャー佐々木君」のアナウンスだけで観衆を喜ばせた。拍手と歓声とどよめきを伴いながら、佐々木が動きだした。「たくさんの方が期待して見に来てくださったので、勝つことが一番いいこと。フォアボールもヒットもなかったので良かった。緊張せず、楽しくワクワクしながらプレーできました」。切れ長の目を少しだけ大きく見開き、大粒の汗をぬぐった。

試合も佐々木が動かした。1回1死一、二塁、豪快に逆方向の右翼フェンスまでワンバウンドで打球を飛ばすと、50メートル5秒9の快足で三塁到達。三塁側ベンチの仲間に両拳を突き出し「ありがとう!」と白い歯を見せた。マウンドでは今春以降、夏仕様に磨いてきた制球重視のスタイルを貫いた。142キロの直球でストライク発進。スピードは追い求めない。「球数を少なく要所で抑えていけばいい。163キロの記録は残っているので気は楽。全部投げるために準備してきたので」。2死から、この日最速147キロでの空振り三振は「緩急をつけられたかな」とうなずいた。

原点は小学生時代の通称“おもちゃ野球”だ。ランドセルを家に置くと、ゴムボールとプラスチックバットを手に公園へ。遠くに飛ばす方法を仲間と試行錯誤し、投手では速い球や多くの変化球も試してきた。「この学校を選んだのも一番大事な地元の仲間と甲子園に行くため」。試合前には国保陽平監督(32)と相談し、緊張なく自分たちの良さが引き出せるノーサイン野球を決断した。

3回表に「佐々木くんに代わりまして…」と代打を告げるアナウンス。観客は次々と席を立ち帰路についた。わずか19球で第1幕は終了。「このメンバーで最後の大会。みんなであと5回勝ちたいです」。3回戦以降は7日で5試合の厳しい日程。楽しみながら勝ち上がり、佐々木自身も160キロ超え“解禁”の時を待つ。【鎌田直秀】