夏の甲子園に球音が戻った。12日のノーゲームを経て、仕切り直した今秋ドラフト上位候補の風間球打(きゅうた)投手(3年)は15日、帯広農(北北海道)戦に7安打2失点完投勝利。ノースアジア大明桜(秋田)を31年ぶりの聖地勝利に導いた(前回の校名は秋田経法大付)。

最速157キロ右腕は、3日間順延の難しい調整の中でも140球の熱投。3回には今大会最速の150キロをマークし、10三振を奪った。大会第8日(20日)の2回戦では明徳義塾(高知)と対戦する。

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風間の甲子園再降臨を知らせるサイレンが、午前10時59分に鳴り響いた。当初の予定では8時開始。大雨の影響で3時間遅れでマウンドに上がった。変化球の制球に苦しみながらも2失点完投、10奪三振。140球目、146キロ直球で最後の打者を一飛に打ち取っても、笑顔はなかった。「勝ててすごくうれしいです」。初戦突破を喜んだが、投球内容は「60点ぐらいです」と厳しく自己評価した。

降雨ノーゲームの12日は4回を無安打無失点。13、14日も順延になり、体力回復に注力し、キャッチボールやランニングなど軽めに調整してきた。この日は4回までに2失点。それでも要所で底力を発揮した。同点の3回1死二、三塁のピンチで、3番佐伯を149キロの内角直球、4番干場を外角フォークで連続三振。「その前に抑えれば、ああいう場面はなかった。次はもっと楽に投げたい」と反省した。

変化球は主にカーブ、スライダー、フォーク、チェンジアップの4球種を操る。この日は秋田大会でほとんど投げなかったフォークを多投。「変化球で一番いいボールだった。打者も真っすぐを張っていて、緩急をつけようと思った」。直球にも強弱をつけ、意図的に130キロ台中盤から140キロ台後半を投げ分けた。

堂々とした立ち居振る舞いが魅力だが、緊張性でマウンドでは「心臓がバクバクです」という。打席に入るときは一礼した後に、大きくのけぞる“儀式”を行う。理由は「背中を伸ばしてリラックスする感じです。小さい頃にお父さんから『やってみろ』と言われました」と対策を実践する。

自己最速を1キロ更新し、158キロの扉を開ける。昨冬掲げた目標で「160キロはなかなか歴代でも出てない。将来的に目指したいが、なるべく自分が出せそうな数字と158キロにしました」。設定した球速は、くしくも01年夏に日南学園(宮崎)の寺原隼人がマークした甲子園最速(大リーグ球団のスピードガンで計測)でもある。剛腕球打が20年ぶりに新たな伝説を築く。【山田愛斗】

▽ノースアジア大明桜・輿石重弘監督(58、風間の投球について) ナイスピッチングだった。変化球のコントロールがいまひとつでしたが、走者を二塁に置いてからはしっかり投げられていた。

▽阪神葛西スカウト 攻めの投球ができていた。強い速球をキープできていた。ピンチからの投球がうまい。速球、変化球ともによかった。

▽西武潮崎編成グループディレクター 春や夏の秋田大会など、もっといい時を知っている。今日は変化球が決まらなかった。それでも、力を入れたら150キロ。ポテンシャルは、今回出ている選手の中では群を抜いている。

○…76回目の終戦記念日を迎え、甲子園にサイレンが鳴り響いた。正午となった第1試合5回裏のノースアジア大明桜の攻撃前に試合を一時中断。控え選手はベンチ前に並び、審判は一塁側ベンチ横の通路前に整列した。グラウンドの選手たちは各ポジションで脱帽し1分間、戦没者追悼のための黙とうが行われた。甲子園での終戦記念日の黙とうは、63年の第45回大会から行われている。

◆無失策試合 帯広農-ノースアジア大明桜戦、神戸国際大付-北海戦で記録。今大会2、3度目。

◆黙とう ノースアジア大明桜-帯広農戦の5回裏が始まる前の正午すぎに試合を一時中断し戦没者追悼のための黙とうが行われた。