智弁学園(奈良)の注目スラッガー、前川右京外野手(3年)が、高校通算36号を含む3安打4打点と猛打を見せた。今春センバツでは結果を残せず悔し涙を流した男が、チームを勝利に導いた。

試合を決定づける1発は、前川にとって聖地初本塁打だった。6回無死一塁。3ボールから甘く入った125キロ直球を捉えると、強烈な金属音が甲子園に響いた。打球がバックスクリーン左に入るのを確認すると、大きく右拳を突き上げた。ダイヤモンドを一周すると手をバチンとたたき「ヨッシャー!」と大きく吼えた。

「粗くならずに丁寧に振っていこうと、気持ちを整理して打席に入った。打った瞬間、いったと思った。やっと打てたと安心した。監督から春に『バックススクリーンに打て』と言われて打てなかった。今日打ててうれしかった」と声を弾ませた。ついに甲子園で出た1発に、笑顔があふれた。

奈良大会では1番を打ったが、1回戦・倉敷商(岡山)戦では3番。この試合では再び、1番に座った。小坂将商監督(44)は「前川は1番良いバッター。相手チームのバッテリーにプレッシャーを与えられると思って、1番で送り出した」と説明。前川も「監督は勝てる打順を組んでくださる。任された打順で(責任を)全うすれば勝てる」と自分の役割に徹する。

初回の初打席では、初球を右前に運んだ。4回には1死満塁から中堅越えのフェンス直撃2点適時打で、チームに先制点をもたらした。1発を含む3安打4打点と打撃で見せれば、7回の左翼守備ではホームにワンバウンドでストライク返球し、二塁走者を刺した。ただ、大活躍にも気を緩めない。「目標は日本一。目の前の相手をつぶすことだけを考えている」と一戦必勝を誓った。【林亮佑】

▽楽天後関スカウト部長 積極性があって、大きいのを打てるパンチ力が魅力。バットが木になっても、あれだけ振れれば長打は期待できると思う。

▽ロッテ永野育成・スカウト部長 長くボールを見られ、ミートポイントが広い。自分のタイミングで、自分の体の中でボールを運べている。ミート力が高く、タイプ的にはアベレージの中距離かと思うが、ボールに入れる角度が素晴らしい。(本塁打は)打者有利のカウントで、浮いた球を下からしばきあげた。近畿大会から広角に打てており、状態はすごくいいと思う。

◆奈良が神奈川に勝利 奈良県勢は甲子園で神奈川県勢に過去1勝12敗と分が悪かったが2勝目。勝利は11年夏の智弁学園9-4横浜以来となり、2勝とも智弁学園が横浜戦で挙げた。