<高校野球兵庫大会:姫路商12-9明石高専>◇2日◇1回戦◇明石トーカロ球場

高校野球には勝者にも敗者にもドラマがある。日刊スポーツでは今夏、随時連載「BIG LOSER」で敗れし者の隠れたストーリーにスポットをあてる。

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この春に「生まれた」ばかりの投手が、1試合で193球を投じた。兵庫大会1回戦で、明石高専・安田陸投手(3年)が12失点完投で敗退。部員13人のチームで、春季県大会で遊撃から投手に転向した。姫路商に15安打を浴び、失策などで大量点を失うも「みんなに背中を押してもらえた」と、背番号1の責任感で投げ抜いた。

仲間から投手転向を打診されたのは昨秋。すぐには首を縦に振れなかった。投手経験がないうえに、チームを背負う覚悟も荷が重かった。だが坂田晨(しん)主将(3年)から「勝とうぜ」と言われた。信頼に応えようと思えた。投げて走って体力を作り、憧れのオリックス山本が取り組むジャベリックスローも取り入れた。制球力を向上させたい一心だった。

この日、中盤からは酷暑との闘い。「変化球を投げる力がなくなって。息も全然収まらなくなって」。チームメート12人の“二十四の瞳”が支えだった。3番打者としても4安打2打点。だが9回、肩で息をしながら立った打席は空振り三振で最後の打者に。「勝ちたかった」。泣きながら地面をたたいた。

「顔色を見て息づかいを見て、迷ったんですけど、代えたら一生恨まれるなと。彼が納得して終わらせたかったんです」と後藤太之監督(47)はねぎらった。信頼に応え、力を振り絞った。忘れられない夏が終わった。【堀まどか】