<高校野球千葉大会:習志野8-0千葉商大付>◇19日◇準決勝◇ZOZOマリンスタジアム

高校野球のドラマは、勝った者にだけ生まれているわけではない。日刊スポーツでは今夏、随時連載「君がらんまん」で、勝者だけでなく敗者にもスポットを当てた物語をお届けする。

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負けても涙はない。千葉商大付の平山卓也主将(3年)は「習志野の美爆音をグラウンドの中で聞けて、全国的に有名なチームと一緒にマリンスタジアムでやれたっていうのがとてもうれしいなと思います」と、汗いっぱいの顔に笑みを浮かべた。

相手は強豪習志野でも、気後れすることなくいつも通り、積極的にファーストストライクから振っていった。3回まで毎回、得点圏に走者を進めたが、好機に1本が出ず、ホームが遠かった。

33年ぶりの準決勝進出を後押ししたものがある。チームスタッフが作成した「モチベーションビデオ」だ。6月21日、市松戸と「Special mach」が行われた。メンバーに入れなかった選手たちが主役の試合で、メンバー外の選手たちが努力する姿、ベンチ入りを逃し悔し涙を流す姿、それを応援する選手の笑顔が約5分間に収められている。今大会は球場に向かう前、全員でこのビデオを見た。この1球、この一振りにはチーム37人の思いがこもっている-。ベンチ外の思いを背負って戦う覚悟を新たにし、強い気持ちを持って試合に臨んだ。平山は「7試合ができたんで、すごい貴重だった。素直にうれしいです」と充実した表情を浮かべた。

チームスローガンは「百花一想」。それぞれの個性を生かしながら、目指す想い(場所)はひとつ、という意味だ。快進撃の夏は終わったが、選手たちの心には大きな充実感が残った。吉原拓監督(45)は「本当に楽しんだんで、こいつら」と笑った。【保坂淑子】