「大人の正義」に変身だ。今秋ドラフトの目玉で最速156キロ右腕の創価大・田中正義投手(4年=創価)が、杏林大との開幕戦で志願の完投勝利を挙げた。6回までパーフェクト投球も、7回に初安打からリーグ戦57イニングぶりに失点。9回にも2点を失ったが最速152キロをマークして12三振を奪い、ネット裏に集結した国内全12球団45人のスカウトをうならせた。

 大記録が途絶えても、動じなかった。完全試合も、昨年5月18日の杏林大戦から続けてきたリーグ戦の連続イニング無失点も、田中には関係なかった。初安打を許した7回、1死一、三塁から冷静に相手のスクイズを外した。三本間に挟まれた走者が味方の悪送球で生還する不運な失点も、後続を打ち取った。9回4安打3失点の内容に「記録はまったく意識していない。チームが勝ったので、何でもいいです」。試合後にテレビカメラ5台を含む報道陣約40人に囲まれても、表情ひとつ変えなかった。

 完投しか考えていなかった。リードが広がった9回表、岸雅司監督(60)に「どうする?」と問われ、即答した。「最後まで投げさせてください」。志願して主将に就任したエースは、マウンドを譲る気はなかった。9回の2失点は「自分の弱さ」と反省したが、右肩を痛めた後ではブルペンを含めても最多の109球を投げ抜いた。「100点の調整ができたわけじゃないけど、完投できたのは意味がある」とうなずいた。

 過去の栄光は捨てた。投げ込み不足は明らかで、3月のオープン戦は打ち込まれた。同20日の桜美林大戦では不調を態度に出し、岸監督に「キャプテンやめろ!」と戒められた。2日後に頭を丸め、覚悟を決めた。「自分を過信していたかもしれない。普通に投げたら抑えられない」。無失点が当たり前になり、知らぬ間に背負い込んでいた重圧から解き放たれた。

 復調途上でも巨人、楽天などのスピードガンで最速152キロを計測した。田中は「完投を意識して力配分した。全力で投げないで打ち取れれば楽なので、6、7割で投げた球もあった」と言った。心の成長を示した156キロ右腕が、ドラフト戦線の主役であることは変わらない。【鹿野雄太】