科学の力で「WBC球=滑る」の定説が覆された。摩擦係数を測定する専門機関にNPB球、WBC球を持ち込み、さまざまな角度から測定。新品状態ではWBC球の方が滑らない結果が出た。一方、砂でもむなどゲームと同じ条件で測定すると結果は逆転。WBC球は、ロジンバッグをたくさん使うほど滑る事実も判明した。今日10日からメキシコ、オランダとの強化試合4連戦(東京ドーム)。固定観念を払い、感覚をつかめるかが焦点になる。

 WBC球は本当に滑るのか? 東京・千代田区にある新東科学株式会社のラボ(研究所)にWBC、NPBの新品ボールを持ち込んだ。同社は摩擦、摩耗試験機の製作が専門で、1952年(昭27)創業の老舗。検査の委託も受け付けている。ボールが指から離れる瞬間をイメージし、「静摩擦係数」を測定した。

 「静摩擦係数測定器」を使った。平面に置いた測定器の裏に、シワやしっとり感など、人間の肌に極めて近づけた薄革をセット。ボールの革と接触させた。完全静止の状態を確認すると測定が始まった。

 出てきた結果は意外、かつ侍ジャパンにとって朗報と言えるものだった。

 (1)新品は、WBC球の方が滑らない カッターナイフで革を切って測定した。ごくわずかの差だが、WBC球はNPB球より高い数値を出した。検証をサポートした同社の北田暢也氏(27)は「ゴムなど、滑りにくい素材のイメージです」。滑る…は固定観念だったことが明らかになった。

 (2)ゲーム仕様では、WBC球の方が滑る 砂でもみ、ロジンをたたくと逆の結果となり、数値の差が開いた。北田氏は「0・2以上の開きは、結構な差です。革の材質などで、なじみやすさが違うのでしょう」。

 (3)ロジンをつけすぎると、WBC球はさらに滑る 比較すると数値が大きく下がり、新品と大きな差がなくなってしまった。「たくさんつければいい、というものではない。逆ですね」。またもや先入観が覆された。

 数字は雄弁に語る。NPB球の感覚が染み付いているから滑ると錯覚する。何も考えず、やみくもにロジンをつけることはご法度だ。

 国際試合で無敗を誇った上原浩治(レッドソックスFA)は、07年の北京五輪アジア予選中に「ロジンをつけると余計に滑る気がする。だったら何もつけない方がいい」と指の感覚を口にしていた。革にしか指をかけないフォークを制御し、当時の「国際球」を自在に操った。感性と探求心、対応力が試される侍たち。大切な4試合になる。【宮下敬至】

 ◆WBC球 ローリングス社製。メジャー使用球と原則同じで、刻印だけが違うとされる。ボールは規格の中で作られているため、NPB球と見た目の差はない。革の規格もあり、材質の原則は牛。「入」の縫い目が特徴で、日本の「人」とは逆。縫い山もやや低い。ちなみに今回測定したボールの重量は142グラム。NPB球は146グラムだった(ともに規定内)。

 ◆もみ砂 新品ボールの滑りを防ぐため、特殊な砂でもんでから試合で使う。成分は非公表。海の砂のようにきめ細かい。アメリカではデラウェア川の川砂を使う決まりで、さらに粒子が細かく対応が必要となる。

<WBC球こう感じてます>

 山崎 表面の手触りは全然違う。僕の場合はツーシームが決め球になる。いつも使っているボールよりも変化が大きいように感じる。

 菅野 滑ると言えば滑る。一番、気になるのはボールごとに均一性がない。あとは、軟らかく感じる。

 石田 直球を投げるのは難しい。ボールが滑るので抜けてしまうのが怖い。

 嶋 滑るのは革。大きいと感じる。

 菊池 間違いなく滑る。

 大谷 打った感じは軽い。(ブルペンでは)強く投げていないので、試合で投げてみないと。

 秋山 外野手は、そんなに敏感になりすぎてもいけない。

 小久保監督 ボールに慣れる期間にして欲しい。なかなか1試合で慣れるのは難しいところもあるけど、修正能力も問われるところ。

 権藤投手コーチ (水気を含んだロジンをテスト)ルールの範囲内で、どうロジンを使うか。