実力者の真骨頂だ。広島菊池涼介内野手(28)が、同点に追い付いた8回2死一、二塁で左中間スタンドへ決勝3ランを放った。「お兄ちゃん」と慕う新井が代打適時打で停滞ムードを打ち破り、興奮冷めやらぬまま弟分が試合を決める1発を見舞った。今季は打撃不振に陥るも調整期間で復調の兆しをつかみ、抜群の勝負強さを発揮した。

兄のお膳立てに応えた。新井を「お兄ちゃん」と慕う菊池が、巨人畠の低めカットボールを強振した。8回2死一、二塁。直前に代打新井が同点打を放ち球場のムードが一変していた。左中間に上がった打球がスタンドインすると、珍しく右手でガッツポーズ。真っ赤なスタンドは総立ちとなり、チームメートも一塁側ベンチから飛び出して待った。最後はお兄ちゃんから熱い抱擁。弟は顔をくちゃくちゃにして喜んだ。

2人で仲良くお立ち台に上がった。菊池は「(新井は)お兄ちゃんにしか見えないです。ガラッと、一気に『いってやるぞ』という雰囲気になりました。お兄ちゃんが打ったので、弟も打たないといけないプレッシャーがあった」。表情は終始にこやかだった。

「お兄ちゃん」は努力家だが、弟も隠れた努力家でもある。ただ、人前で努力する姿を見せるのを嫌う。打撃不振に陥った今季も、人知れずもがいていた。シーズン途中「打てていないので何とかしないとね」とウエートトレーニング機器を自宅に購入。瞬発力や柔軟性を大事にするタイプながら、停滞感を打ち破ろうと必死だった。この日も若手が早出特打を行う中、ベンチ裏のスイングルームでティー打撃。打球音だけが響いた。

全日程終了からファイナルステージ初戦までの9日間では「お兄ちゃん」からアドバイスも受け「しっかり練習できた。自分を見つめ直して、自信が少し戻ってきたかな」。人目に見せない努力が実を結んだ。劇勝でCS突破に王手。「新井さんと長くやりたいのは僕だけでなく、みんな思っていること。そういった部分もプラスになっているんじゃないかな。また明日仕切り直して、ストレートで勝てるように頑張りたいと思います」。日本一まで「お兄ちゃん」とともに戦う。【前原淳】