阪神岩田稔投手(35)は「えっ!?」と目を見開き、「意外ですね」と照れ笑いした。

強い直球にスライダーなど多彩な変化球を制球よくまぶし、6回2安打1失点で今季3勝目。広島戦に限れば5年ぶりの勝ち星だった。14年7月8日以来、13戦勝ちがつかず7連敗で迎えていたマウンド。1823日ぶりの「広島星」には、苦労した長い年月分の渋みが存分に詰まっていた。

1回無死、1番菊池涼の遊ゴロをいきなり木浪が失策。ベテラン左腕は「ミスは誰にでも出る。助け合いですから」と動じず、後続3人からゴロアウトを奪った。2回に先制点を奪われても落ち着き払った投球内容。今季初めてバッテリーを組んだ坂本とも難なく波長を合わせた。

「大丈夫だとは思うけど、ちょっと心配やな…」。前日4日、残留練習地だった鳴尾浜でつぶやいた。数日前、九州地方を豪雨が襲った。被害が出た熊本・益城町は100歳になった父方の祖母が暮らす地域だ。「ばあちゃん」は16年4月の熊本地震で自宅が倒壊し、今は同町の施設で生活を送っている。

岩田は17年12月、大阪・南港から北九州・新門司港まで車をフェリーに乗せ、遠路はるばる祖母の顔を見に行ったことがある。「99歳のばあちゃんへ」と当時の年齢を書き込んだ背番号21ユニホームをプレゼントすると、破顔して喜んでくれたという。祖母は今も孫の投球を楽しみにチェックしている。負のジンクスを断ち切って3勝目を熊本に届け、充実感が漂った。

「粘り強く投げるのが僕のスタイル。その中でしっかりバックに守ってもらってアウトを重ねていくのが僕の投球なので、それができて良かったです」。この日も11個も内野ゴロを奪った。勝負の夏場、持ち味が際立ち始めた35歳が頼もしい。【佐井陽介】