CS史上最大の逆転劇の裏に阪神近本光司外野手(24)は決死の覚悟があった。

5点を追う7回1死一塁、エスコバーの初球、抜けたスライダーが近本の頭部すれすれを通過。剛腕助っ人の荒れ球にのけ反ったが、おじけづかなかった。

「あの球がもう1球続けてくることはないと思った。次に来たら『当たってもいい』と思っていた。しっかり踏み込めました」。7球目を直球を振り抜くと、俊足を飛ばし遊撃内野安打。続く北條の3ランを呼び込んだ。1点差の8回2死一塁では右前打を放ち、すかさず二盗に成功。この日2個目の盗塁を決めると、またも北條の中越え適時打で逆転のホームを踏んだ。

「しっかり自分が出塁すること、後ろにつなぐことがしっかり出来た。一番いい得点に貢献することが出来た」。初回にも安打を放ち5打数3安打の猛打賞。さらにポストシーズンでの新人のマルチ盗塁は、史上初という快挙になった。

次の塁を果敢に狙う勇気は、社会人時代にも培われていた。ある時、大阪ガス・橋口博一監督は近本に指示した。「アウトでもいいからどんどん走れ、アウトにならんと分からんこともあるやろうから」。すると近本はすぐに「ほんまに走っていいんですか? ほんまにいいんですか?」と全てで盗塁を狙う姿勢を示したという。橋口監督は「アウトになっても全然かまへんから、勇気だけは絶対失うな。それがなくなったら絶対走れなくなる」と常に声を掛けていた。失敗を責めず積極性を重んじる土壌は、矢野阪神にも共通する部分。シーズン36盗塁で盗塁王になる一方、盗塁死は15を数えた。持ち前の前向きな姿勢も加わり、失敗をおそれず、武器を磨いてきた。

打って、走って、CSでも存在感は十分。ゴールデンルーキーは大舞台でも輝いた。【磯綾乃】