ロッテの育成ドラフト1位・谷川唯人捕手(18=立正大淞南)には、忘れられない青春の一幕がある。

晴れ舞台は16年秋、奈良公園だった。島根・安来市の中学2年生として、修学旅行に訪れた。東大寺の見物だけが目的ではない。豆絞りの手ぬぐいを頭に巻いて、竹ザルを持った。三味線と鼓が郷土民謡の安来節を奏でれば、どじょうすくい踊りの始まりだ。

12月の入団会見で「伝統芸能や文化が栄えています」と島根県をPRした。特に安来はどじょうすくい踊りで有名。中学の授業にも取り入れられ、披露の場もある。「修学旅行で踊るんです。安来市の文化を全国に広げる意味で」。同市ホームページによると、15年以上続く取り組みだ。

独特なコスチュームに、ユーモラスな踊り。思春期まっただ中、ちょっとした照れもあるかもしれない。それでも大舞台に備え、一生懸命練習した。当日も恥を捨て、同級生たちと一緒に全力で踊りきった。鮮明に覚えている。

「観光客の人がたくさん寄ってきてくれて、その時にいただいた拍手が…初めて聞いたくらい、本当に大勢の人が。自分たちが頑張って恥ずかしさを捨ててやっていたので、頑張ってよかったと思います」

大勢の観光客と鹿? からもらった強いハートで、野球も頑張り抜いた。中3秋には島根県選抜の一員として、千葉・成田でのKボール全国大会に出場。強豪撃破で4強入りし「全国にはすごい選手がいっぱいいるなと感じました」と、さらに世界を広げた。

遠投123メートルが自慢で、未来の正捕手と期待される。野球で目立てば、また故郷をPRできる。人々の心を動かした演技がお蔵入りするのはもったいない。次はぜひZOZOマリンで、大勢のファンと一緒に-。【金子真仁】