ようやく刻まれたスコアボードの「1」に阪神高橋遥人投手(25)はベンチで両腕を大きく上げ、「良かったです」と無邪気に喜びを表現した。

昨年3勝3敗、防御率2・03、前回対戦ではプロ初完封勝利を挙げた得意の巨人戦。「ブルペンでは良くなかったですが、マウンドに立ってみたら変わると思ったので、そんなに深く考えないようにした」。試合前の不安要素などみじんも見せず、淡々と腕を振った。

初回から150キロ連発で巨人打線に牙をむく。4回まで無安打を続け、5回先頭の中田に初安打を左前に運ばれても、3者連続三振。そのまま勢いを保って7回1安打無失点、三塁を踏ませなかった。つけ入る隙を与えず完璧に試合をつくった。

中5日で臨んだ8日の首位攻防のヤクルト戦でまさかの5回4失点。「前回、ヤクルト戦が…大事な試合で試合をつくれなかったんで」と反省し、2週連続の中5日登板への力に変えた。「尻上がりに良くなったかなという感じが。四球も出しちゃいましたけど、しっかり粘り強く投げられたと思います。ストレートが後半良くなりました」。

直球には強いこだわりがある。2軍調整中だった8月31日のウエスタン・リーグ広島戦のこと。5回1/3を無失点、5奪三振と数字上はまとめ、最速149キロを出しても「追い込んでから直球で見逃しが取れなかった。直球の質が悪い」と厳しい自己採点だった。この日は11三振のうち直球で4つの見逃し三振を奪った。矢野監督は「コントロールも結構良かったし、球の力がある。遥人の力からしたらこれくらいやってくれる」とうなずいた。

降板時も余力を残していた。8回の打席で代打を送られたが、右足にレガースを付け、続投の意思はあった。「(次も)しっかり試合をつくれるように頑張ります」。内に秘める左腕の熱い闘志が、崖っぷちの虎の背中を押している。【前山慎治】